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手錠の上に上着をかけられて、刑事さんに促されて部屋の外に出る。
パーカーのフードを被せられる。
パトカーの回転する赤いライトが眩しい。
部屋の前には黄色いテープが張り巡らされ、警察官以外は入れないようにされている。
階段の下では、騒ぎを聞きつけて来た近所の人が、
アパートを覗き込んでひそひそと話している。
顔見知りの人もいる。
その中に、新聞屋のおやっさんの顔があった。
電話で煮え切らない俺を、心配して来てくれたのだろう。
おやっさんは俺が出てきたのを見ると、俺に向かって怒鳴った。
「どうしたんだ?! 何があったんだ?!」
何も言わず、おやっさんに向かってお辞儀をした。
本当に、すみません。
本当に、今までありがとうございました。
背を向けた俺におやっさんが怒鳴る。
「絶対に助けてやるからな!」
……ありがとう、おやっさん。
パトカーの止まっている道の先には、店員さんの家。
何も知らずに、明日誕生日ケーキを作るのだろう。
俺の為に。
右頬に残る唇の感触。
冷たくて柔らかい。
……ケーキ、食べたかったな。
刑事に挟まれてパトカーに乗せられ、ドアが閉まる。
その音が、俺の一人きりの人生の始まりを告げた。
刑法 第2編 罪
第26章 殺人の罪
(自殺関与及び同意殺人)
第202条
人を教唆し若しくは幇助して自殺させ、
又は人をその嘱託を受け若しくはその承諾を得て殺した者は、
6月以上7年以下の懲役又は禁錮に処する。
『おわりははじまり』
了