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今の俺なら……?


父さんを見る。


久しぶりに見る父さんの顔。



涙を流しながら、俺を見ている父さん。


子供の頃、あんなに大きくて強くて頼もしかった父さんが、


今はこんなに痩せて、泣いて、俺に懇願している。


右手で脇腹を押さえている。


痛いんだろう。


薬もあまり効かなくなっている。



色んな思いが頭を高速で回る。


父さんに生きていて欲しい。


でも、これ以上父さんに辛い思いをさせたくない。


父さんにキックボクサーになる夢を壊された。


今も上手く動かない右手。


父さんの病院にかかったお金があったら、高校に行けた。


奨学金で高校に行けた。


それでも。


父さんに生きていて欲しい。


それは父さんを苦しめる事になる。


父さんに生きていて欲しい。


それは父さんを苦しめる事になる。


父さんに生きていて欲しい。


それは父さんを苦しめる事になる。



父さんの目を見る。


真っ直ぐに俺を見ている。


強い視線。


父さんの意志が、俺の中から一つの答えを浮き上がらせた。



父さんが、初めて俺を頼った。


軽かった父さんの体。


もう苦しませない。


終わりにしよう。


俺が終わらせるから。




台所から新しいビニール袋を持って来る。


父さんを布団に寝せて、掛け布団をかける。


父さんは目をつぶっている。


その穏やかな顔。


父さんのこんな顔を見るのは、母さんが死んでから初めてだ。


「早く袋を被せろ」


躊躇しているのに気付いたのか、父さんが優しい声で促す。


「……父さん、さよなら」



父さんの頭にビニール袋を被せて、隙間が出来ないように、頚で結び目を作った。



続く