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父さんの腕を掴む。


みしみしと音を立てる中指に力を込めて、父さんを引き剥がす。


その勢いで、父さんが横に転がる。


すぐに起き上がったけど、ふらついて膝をつく。


父さんの手が首から離れ、大量の空気が一気に気管に入り込み、


付いていけずに咳き込んだ。


押さえつけられてた首が熱痛い。


急に血が周り始めたのか、顔も指先も熱くなってきた。


右手の甲に脈と同じリズムで鈍い痛みが走る。


もやがかかったように頭がぼんやりする。


視界の端に、緑の渦がまだ残っている。


壁に寄りかかって胸で大きく息をしながら、転がったままの父さんを見る。



父さん、軽くなった……。


もし父さんが昔の父さんだったら、俺はもう死んでたかもしれない。


鳥肌が立つ。


死ぬのは嫌だ。


俺はまだ何もしてないんだ。


高校も、恋愛も、何もかも。


このまま死ぬなんて、出来ないよ。



動かない父さんが心配だけど、また襲われたらと思うと、怖くて傍に寄れない。


そっと声をかけてみる。


返事はない。



カーテンを開けた窓から、月の光が差し込んでいる。


その中に倒れている父さんの痩せた背中。


どんな表情をしてるんだろう?


また俺は父さんの顔を見れない。


部屋の中に二人の大きな息遣いだけが響く。



しばらくすると、父さんの背中が細かく波打ち始めた。



続く