58
キツイ状況は変わらないのに、一つ楽しみがあると、
何とかなる、って思えるのは何故だろう。
昨日店員さんを送り届けた後、家に戻ってすぐに寝て、
またいつもの時間に目覚めた時、すっきりと起きれた。
配達所に行って朝刊の準備をしていると、兄さんたちに言われた。
「何か良い事あったのぉ?」
「え? 何もないですよ」
「そう? 何か楽しそうだけどぉ」
「そうですか?」
「好きな女でも出来たんじゃねー?!」
「やだぁ、男になっちゃったのぉ?」
「おとっ……違いますよっ」
「あらあら真っ赤になっちゃって、ホントにヤっちゃったのかしらぁ」
「女はいいぞー。どんどんヤれ」
「だから違いますって」
そうからかわれつつ、嫌な気はしなかった。
好き……?
か、どうかは分からないけど。
店員さんの顔を見るとホッとするし、父さんやお金の事で凹んでても、一瞬忘れられる。
店員さんの顔を思い出すと、よし頑張ろう、って思える。
朝焼けの丘の上に自転車を止めて、街を見下ろす。
夜と朝の狭間、紫色からピンク、オレンジへと色を変えていく空。
その中で輝きを消していく星達。
徐々に輪郭を現していく街を見下ろしながら、店員さんの事を考えた。
好きとか嫌いとかじゃなく、俺の一番近くにいる人。
これからも彼女の傍にいる為に、頑張ろう。
今日も一日、一生懸命生きよう。
ペダルを力強く踏み込み、自転車を漕ぎ始める。
続く