53


店員さんは、ずっと黙って俺の話を聞いててくれた。


そして、中身を飲み干した缶がすっかり冷たくなった頃、一言だけ言った。



「優しいんだね」




優しくなんかない。


俺が本当に優しかったら、父さんをこんな風にはしてなかったはずだ。


ただ取り繕うだけの、うわべだけの優しさだ。



無言のまま、店員さんを家へ送り届ける。


ドアに入りかけた店員さんが振り返って、言った。


「そんなに自分を責めないでね。今の状態は君のせいじゃないよ」


「……」


「明日も店で待ってるね。お休み」


にっこりと笑って、ドアを閉めた。



一人で今来た道を戻り始める。


俺もやっぱり動揺してたんだな。


普段ならあんな話絶対にしないのに。


あんな父さんを見た後で、重すぎる話しちゃって、


店員さん引かなかったかな。



やっと見つけたホッと出来る時間。


ほんの15分くらいの時間。


それを失う事が、今はとても怖い。


こんなにも大きな支えになってる事を思い知らされる。


その反面、誰にも言えなかった思いを明かした事で、気分が軽くなっていた。


状況は変わらないけれど、知っててくれる人がいる。


あの人がそばにいてくれれば、俺はまだ頑張れそうな気がする。



明日待ってるって言ってくれた。


どんな態度を取られるか不安だけれど。


その言葉を信じて、コーヒーを飲みに行こう。



店員さんの家を振り返る。


その空に輝くシリウスが、少しだけ位置を変えていた。



続く