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ジリッと微かな音がした。


後ろを振り向くと、店員さんが玄関で立ち尽くしている。


あまりの事に硬直してるみたいだ。


見られちゃったか……あ、送って行かなきゃ。


慌てて涙を拭いて、店員さんに笑いかける。


「ビックリさせてごめん。送って行くよ」


「! い、いいよ。お父さんの傍にいてあげなよ」


「大丈夫、父さん朝までもう起きないから」


店員さんを促して、ドアの外に出る。



道を歩き始めても、店員さんの青い顔は戻らない。


当たり前か、あんな場面を見せられたら誰だって言葉を失う。


……どうしよう。


自販機の明るい照明が目に入る。


自販機でココアとコーヒーを買って、傍のベンチに座る。


ちょっと無駄遣いだけど、今日はいいや。


このままの状態で家に帰せない。


「本当にビックリさせてすみません」


「う、ううん! ううん……うん」


「いつもあんな事してる訳じゃないから、父さん。初めてで俺もビックリして」


「そうなんだ……」


言葉が途切れる。


俺も言葉が出てこない。


何を話して良いのか分からないまま店員さんを見ると、視線が合った。



店員さんは無言で俺の目を覗きこんだ。



しばらくずっとその状態が続いて、やがてポツリと言った。


「大丈夫?」


……。


手にした缶の温かみが、掌に伝わる。


「大丈夫じゃ、ない」



続く