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バンデージを巻いて、庭でトレーニングをする。


父さんは、台所でビールを飲んでいる。



日曜の午後。



父さんが一緒にトレーニングをする事は、最近殆んどない。


前はこっちがウンザリするほど、毎日やっていたのに。


仕事帰りは、酒を飲んで遅く帰ってくる。


休みの日はこうやって、酒を飲みながらぼんやりとしている。


たまに思い出したようにキックを受けてくれるけど、


俺を鍛える為というよりは、何かに集中して頭を空っぽにしたいだけみたいだ。


ただひたすら、俺のキックを受けながら突っ立っている。


以前のように、気合を入れながら俺を押し倒す事もない。



母さんの葬式から1ヵ月。


父さんは話さない。


元々無口だったけど、更に言葉を発する事が少なくなった。


母さんの死が、父さんの頭をいっぱいにしてしまって、他に何も考えられないのか。


それだけ、父さんにとって母さんが大事で大きな存在だったんだ。



俺も話さない。


父さんと俺の共通の話題は、キックボクシングだったのだ。


何を考えているのか分からない、何にも興味を示さない父さんに、俺が何を話せる?



声がない家の中。


父さんは酒を飲む。


俺はトレーニングをして汗をかく。


沈黙から二人して逃げてる、似たもの親子。



父さんは酒を飲み続ける。


母さんの姿が消えた台所を見つめながら。



続く