74


酒のグラスが数え切れないくらい変わっていく。


さすがにオレはもう飲めなくて、ミネラルウォーターにした。


ホント酒強いなぁ。


「小さい頃から飲まされてたからさ」


「役者のおっちゃん達にか?!」


「そうそう」


そう言いながら、太一の顔はだいぶ赤くなってきている。


あれだけ飲んだら当たり前だよな。



「今度の舞台キスシーンあってさぁ」


「へー」


「何で嬉しそうなんだよ?」


太一が軽く睨む。


「あ、オレ嬉しそう?」


「うん。……本当にキスしなくちゃいけなくてさ、まいるよ」


「えっ! 舞台ってフリだけなのかと思ってた」


「だろう? 演出家が超リアリティを求めたいとか言って」


「ふーん。映画だったら分かるけどね」


「そう! しかも相手男なんだぜ」


「ええっ、男?!」


「全然出来てないから、2丁目行って来いとか言われちゃってさぁ」


「マジで?!」


「知らないヤツとキスなんか出来ないよ」


「だよなぁ、しかも男だろ?」


「同じ男だったら千明の方がいいよ」


「ええー?! どうしよっかなぁ」


「つか、練習させて」


「……はっ?」


「ちょっと目つぶっててくれればいいからさ」


「いやいや」


「いいからいいから」


「いいから、じゃないよっ!」



いつの間にか太一の手がオレの首に回っていて、ホールドされてしまった。


鍛えてるから、意外と力があるのだ。


太一の顔が近づいてくる。


その目が……イタズラ小僧みたいに笑ってる。


からかってやがるっ。


「もう、冗談はいいって」


と太一の手を外そうとすると、太一の目が少し悲しそうに瞬いた。



えっ?!


そう思った瞬間に、顔が斜めに傾けられ、口角の上がった唇が近づいてきて……。
 



……おいっ、ちょっ、た、太一……、


STOP!!



『STOP!!』