『彼女は本能のまま走り出す』
どうしても逢いたくて
そのまま彼女は走り出す
足元はサンダル
小銭で膨らんだ財布と
携帯とリップクリームだけ持って
ドアが閉まりかけた電車に飛び乗り
彼の元へ
本当に逢えるのか
ふわっふわの不安と
逢えた瞬間を想像してこみ上げる
甘酸っぱいドキドキを
交互に噛み締めながら
電車は進む
東へ 東へ
窓から見える風景を変えて
湿気と暑さがきついあの街へ
彼が待つ
今夜一番熱いあの街へ
90分揺られて着いた街
もう夕方だというのに
強い日差しに照りつけられる
顔が火照る
喜びが抑えられない
魔法のドアが開き
その黒い冷たい口に飲み込まれる
周りの人にもみくちゃにされて彼を待つ
気を失ってしまいそうな自分を
何とか支えながら
そうして
ステージに光が溢れ
彼が現れる
その場にいる人間全てを圧倒する
そのシルエット
彼女の魂は
ふわふわと体から離れて
ゆっくりと彼の傍に寄り添った
『彼女は本能のまま走り出す』
了
Inspired ④