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母さん?
そういえば見た事なかった、タイチの母ちゃん。
「この街に住んでるの? タイチの母ちゃん」
「そう、たぶん」
「たぶん?」
「……うん」
白くて縦長の素っ気無い封筒を、左手で大切そうに持つタイチ。
角を曲がる度に番地を確かめる。
夕方になってもまだ高い位置にある太陽が、アスファルトを照り付けて、
オレとタイチから気力と体力を奪う。
タイチのTシャツの背中は、もうびっちょり濡れてた。
結局探しきれずに、二人で土手の木陰に座り込んで休んだ。
タイチは何も話さずに、自販機で買ったサイダーを飲んでいる。
顔が少し焼けて、赤くなっている。
あの子になる時、大変じゃないのかな。
流れていく川面を見ながら、サイダーを飲む。
あー冷たくてうめぇ。
タイチの母ちゃん、どこに住んでるんだろ?
「住所見せて」
無言で差し出された封筒に書かれた住所を見る。
キレイな大人の字。
この住所……。
「あのさ、この辺前に区画変わってるんだよ」
「え?」
「この住所、今ないかもよ?」
タイチの上気した顔が一気に青ざめてしまったので、オレは慌てて言った。
「だからさ、こうやって探し回る前に、交番とかで聞こうよ」
「……そうだね」
タイチが眩しそうに、正面の川を見つめた。
続く