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……!
何やってんだ俺?!
慌てて体を離した。
ほんの一瞬触れただけの唇に、彼女の感触が残る。
冷たくて、柔らかい。
頭が混乱していた。
彼女がゆっくりと目を開ける。
目の前の黒目がちの目は、もう泣いてはいない。
ただ真っ直ぐに俺を見ている。
頭が働かない、言葉が出てこない。
何も言えず何も出来ず、彼女を見つめ返した。
指に残る花びらにやっと気付いて、何となく手渡しながら、目を覗き込む。
夜空と同じ暗闇に映し出される、桜と俺の顔。
初めて見る女の顔。
「……そんな顔、他の男の前でするなよ」
ゆっくりと微笑んだ君は、匂い立つ花のように艶やかで綺麗だった。
酔っていた。
何に? 酒に。
いや、夜桜に。
本当は、君に。
甘く香る風はうねりを上げ、桜は空へと舞い上がる。
吹雪のように降り注ぐ花びらは、人を酔わせ狂わせる。
春の夜の淡い夢。
花びらの行方は、誰にも分からない。
『花酔い』
了