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客席の照明が落とされ、ステージに青い光が走る。
スピーカーから爆音が弾き飛ばされる。
眩い照明の中に、黒いシルエットが現れる。
その背中から、足元から、客席に向かって存在感があふれ出る。
長い時間焦らされた客席から悲鳴に近い、凄まじい歓声が上がる。
背中に回した腕が、ベース音に合わせてリズムを刻む。
黒いスーツを着た背中が、踊り始める。
自由自在な体に、音楽が通り抜けていく。
スーツを着ているのに、筋肉の動きが透けて見える。
しなやかな動物。
第一声と共に振り返る大輝。
一気に放たれた気合と色気に、沸騰したように客席のボルテージが上がる。
名前を叫び続ける者。
飛び上がって踊り始める者。
口を開けたまま、見つめ続ける者。
ただただ涙を流す者。
甘い声が一人一人を包み込み、脳味噌を鷲掴みにする。
大輝がターンする度に飛び散る汗。
正しい弧を描くシャンデリア。
繊細な指先の動きを見逃すまいとして、皆の視線が一点に集中する。
伸びやかな歌声と共に、見た事のない世界へ引き摺り込まれる。
ハーメルンの笛吹き。
先導する大輝の軽やかなステップ。
時に楽しく、時に妖しげに。
足元はエナメルの赤いスニーカー。
羽根が生えている。
あんな風に踊れたら、どんなに素敵かしら。
夢の世界では、あっという間に時間が過ぎてしまう。
名残惜しく振り返りつつ、現実に戻る。
「もう頭真っ白で何にも覚えてないんですけど?!」
「もーもーもーセクシー過ぎる!!」
「皆様ご覧になりまして?! あの歌の指の動き! ノックダウンですわ!」
「ダンスナンバー可愛かったよねぇ、すっごく楽しそうでさぁ」
「ヤバイ、セトリ忘れそう! これとこれと……え? この後なんだったっけ?」
「MC相変わらず可愛いよねぇ」
「絶対さぁ……目合ったよーーーわははははははははっ!!!」
「あたしも絶対目あったぁ! だって、バチバチって火花散ったもん!」
「あのパーカー買っとけば良かったぁ!」
「だよねーソールドアウトなんでしょー? 悔しい! それくれっ!」
興奮したまま酒を飲んで、ファン友達と会話にならない会話を延々とし、笑い続ける。
興奮し過ぎて、ついさっきの事なのに、もう記憶が薄れてる。
頭の中で、ステージの大輝を繰り返し踊らせる。
ライトに反射する赤いスニーカー。
似たようなの、買っちゃおうかな。
続く