57
黒くて長い髪を一つに束ねて、黒いTシャツを着ている。
切れ長の目が、俺を見つめている。
「!」
「!」
心臓が跳ね上がる。
「……プレゼントですか?」
「……はい」
「……恋人に?」
「いや、お袋に……」
「どんなのにしましょう?」
「……選んでください」
鮮やかに蘇る、初めて出会った時の記憶。
黒澤さん。
こんな場所で、また出会うなんて。
忘れかけた温かさが、胸の奥で波のように押し寄せる。
黒澤さんの手が、花を選んでいく。
その傷だらけの荒れた手。
眼鏡をかけた白い横顔。
その耳に、ガーネットのピアス。
思わず自分の耳を触る。
あるはずのないピアスが、今も俺の耳に刺さっていた。
「こんな感じでいかがですか?」
ピンクの薔薇を中心にした、シンプルなアレンジ。
俺が考えていたのと、同じイメージ。
「それで良いです」
会計を済ませる。
「……」
「……」
「……子供は、元気なんですか?」
「……ええ。もうすぐ6歳なの」
「……アイツ……旦那さんは?」
「……亡くなったの」
「!……いつ?」
「4年前」
「そう……何て言っていいか……」
「ううん、分かっていた事だったから」
「分かって……?」
「ええ……」
「……」
「……」
聞きたい事、話したい事がたくさんありすぎて、上手く言葉がまとまらずに、
無言のまま出口へ向かう。
振り向いて、黒澤さんを見つめる。
幾分ふっくらしたものの、あの頃と変わらない綺麗な顔。
黒澤さんの耳に輝くガーネット。
忘れようとして、忘れられなかった、愛しい女。
ざわめく心を抑えながら、怖がらせないようにそっと、言った。
「また、来てもいいですか?」
頷く黒澤さんを確認して、外に出る。
空には、黄色から真珠に色を変えた月が、輝いていた。
続く