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女と手を繋いで歩きながら、何となく人波に目を移す。


幸せそうに頬を紅潮させながら歩く人。


大きな包みを抱え。


ある者は、愛おしそうに恋人の肩を抱きかかえ。


他人から見れば、俺も幸せそうに見えてるんだろう、きっと。



正面から、赤ん坊を抱えた夫婦が歩いてくる。


首が座ったか座らないかくらいの、赤ん坊。


抱きかかえる母親と、優しい目で見つめる父親。


母親の長く黒い髪の毛が、風になびく。



母親の白い顔が、ふっと前に向く。


目が合う。


「!」


一瞬大きく見開かれた切れ長の目。


そうして、口の端だけで微かに微笑み、 通り過ぎて行く。


何事もなかったかのように。


そう、何事もなかったかのように。



黒澤さん……。



探していた大事なものが現れた時、体が動かなくなるのは何故なんだろう。


頭に血が上って、顔が赤くなるのが分かる。


ぼんやりして、口元が緩む。


「どうしたの?」


声をかけられて、ハッと我に帰る。



黒澤さん!



腕に抱えた子供。


無事に出産出来たんだ、良かった!


俺の子供。


隣にいるのは……写真のアイツ!


何故そいつといるんだ?!


結婚してるって言ってたじゃないか。


それも嘘だったのか?



黒澤さんと子供が人波に消える前に、この手に捕まえなければ。


見失ったら、今度こそ二度と会えない。



追いかけようとして、引き止められる。


「どうしたの?!」


無言で握られた手を振り払う。


ジャケットの裾を捕まえられる。


「離せっ!」


カッとして、女の腕を勢い良く払う。


その拍子に女がよろけて、転ぶ。


その目が悲しそうに俺を見る。



けれど、今はそんな事に構ってなどいられない。


黒澤さんが歩いていった道を追いかける。



何故、急に俺の前から消えたんだ?


何故、いまそいつと一緒にいるんだ?


その子は、俺の子供なんだろう?


答えてくれ!



ゆっくりと歩く人にぶつかりながら、黒澤さんを追いかける。


人が多すぎて、なかなか前に進めない。


くそっ、邪魔だ。



いた!


まっすぐに走って追いかける。


もう少し。


もう少しで、手が届く。


もう離さない、離れない。



黒澤さんに追いつき、肩に手を置こうとした瞬間。


黒澤さんの腕の中の赤ん坊が、激しく大きな声で泣き始めた。




続く