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俺が持っている、黒澤さんの欲しいもの。


それは何だ?



その疑問が、何日も頭を支配していた。


それが何か分かれば、ずっと離れなくて済むのだ。


渡さなければいいのだから。



暗闇に白く浮かび上がる黒澤さんの胸に触れる。


掌に規則正しい鼓動が伝わる。


温かい。



この胸の中に、何を隠してる?


黒澤さんの中に、俺の知らない女が潜む。


こんなに近くにいるのに。


体は毎日繋がっているのに。


霞んでいくように、日ごとに分からなくなる。


どんどん遠くなる。


いつか本当に、手の届かないところへ行ってしまいそうで。



胸元に唇を寄せる。


もうアザは付けない。


付けたところで、アイツには何も効果がないし、


黒澤さんが俺のものじゃない証拠になるばかりだ。



どうしても手に入れたいもの。


どうしても手に入らないもの。


それが一緒だなんて。


俺が本当に子供なら。


叩いても壊しても、誰にも渡さないのに。


中途半端に子供で大人な俺には、それすら出来なくて。



欲しいものを渡してしまったら。


黒澤さんはどうするのだろう。


俺はどうなるのだろう。



考えたくもない。



泣きたいような気持ちで、救いを求めるように、


黒澤さんの目を覗きこむ。


鏡のように、俺の顔を映す瞳。


けれど今は。


その目の奥に、俺は映っていない。


別の男の顔がちらつく。



それを認めたくなくて、俺はまた、胸に顔を埋める。


枕元で、薔薇の赤い花びらが、音も立てずに落ちた。



続く