28
毎朝黒澤さんと一緒に起きて、朝飯を食べて、
仕度をして、バーネットで夜まで働く。
一緒に部屋に帰って、食事をして、同じベッドで眠る。
一日中、視界の中には黒澤さんがいた。
けれど、以前のように無邪気に喜べなかった。
一瞬でも離れてしまえば、黒澤さんが消えてしまいそうで。
仕事をしながら、意識は絶えず黒澤さんに向けられていた。
束縛。
黒澤さんは何も言わないけれど、息苦しいのかもしれない。
俺は、それに気付かない振りをする。
ずっと傍にいる為に。
アイツを近寄らせない為に。
俺に出来る、たった一つの方法。
なのに、学校が始まった。
怖い。
学校に行っている間は、傍にいられないからだ。
その間に、アイツと会うかもしれない。
その間に、アイツとどこかへ行ってしまうかもしれない。
不安な気持ちで、携帯を握り締めたまま授業を受け、
チャイムと共にバーネットへ駆け出す。
店で働く黒澤さんを見て、やっと安心する。
そんな日々が続いていた、ある日。
店のどこにも黒澤さんがいない!
どこにいるんだ?!
嫌な汗が掌や脇に湧き出る。
店の裏から、話し声がする。
そこにいたんだ。
ホッとして近づく。
「……どうして大輔と一緒にいるんですか?」
マユ?!
音を立てないように、そっと近づく。
「他に付き合ってる人、いますよね?」
「……」
「良い歳して二股とか、恥ずかしくないですか?」
「……そうね」
「じゃあ、大輔と離れてください」
「大輔君が離れないのよ」
「! ……傍に置かなければいいじゃないですか」
マユの声が震える。
「今はまだ……私には、彼が必要なの」
「……必要?」
「彼は、私が欲しいものを持ってる」
欲しいもの……?
「何ですか、それ」
「……教えないわ」
「! じゃあ言わなくていいです。
でも、これ以上大輔を傷つけないで下さい。
あんな大輔の顔、見たくないんです」
「……マユちゃん、本当に大輔君の事、好きなのね」
「あなたに言われたくありません!」
マユが走り去る足音が聞こえる。
そっと、その場を離れ、仕事に入る。
「あれ、大輔君もう来てたの?」
店の中に入ってきた黒澤さんが、
何事もなかったかのように話しかけてきた。
「はい、どこから手をつけましょうか?」
「さっき注文が入った赤い薔薇の花束を作って届けて。
住所は注文書に書いてあるから」
「はーい」
赤い薔薇のアレンジをしながら、考えていた。
俺が持ってる、黒澤さんの欲しいもの。
それって何だろう?
!
薔薇の棘が指を傷つける。
続く