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毎朝黒澤さんと一緒に起きて、朝飯を食べて、


仕度をして、バーネットで夜まで働く。


一緒に部屋に帰って、食事をして、同じベッドで眠る。


一日中、視界の中には黒澤さんがいた。


けれど、以前のように無邪気に喜べなかった。


一瞬でも離れてしまえば、黒澤さんが消えてしまいそうで。


仕事をしながら、意識は絶えず黒澤さんに向けられていた。



束縛。


黒澤さんは何も言わないけれど、息苦しいのかもしれない。


俺は、それに気付かない振りをする。


ずっと傍にいる為に。


アイツを近寄らせない為に。


俺に出来る、たった一つの方法。



なのに、学校が始まった。


怖い。


学校に行っている間は、傍にいられないからだ。


その間に、アイツと会うかもしれない。


その間に、アイツとどこかへ行ってしまうかもしれない。


不安な気持ちで、携帯を握り締めたまま授業を受け、


チャイムと共にバーネットへ駆け出す。


店で働く黒澤さんを見て、やっと安心する。



そんな日々が続いていた、ある日。


店のどこにも黒澤さんがいない!


どこにいるんだ?!


嫌な汗が掌や脇に湧き出る。



店の裏から、話し声がする。


そこにいたんだ。


ホッとして近づく。


「……どうして大輔と一緒にいるんですか?」


マユ?!


音を立てないように、そっと近づく。


「他に付き合ってる人、いますよね?」


「……」


「良い歳して二股とか、恥ずかしくないですか?」


「……そうね」


「じゃあ、大輔と離れてください」


「大輔君が離れないのよ」


「! ……傍に置かなければいいじゃないですか」


マユの声が震える。


「今はまだ……私には、彼が必要なの」


「……必要?」


「彼は、私が欲しいものを持ってる」


欲しいもの……?


「何ですか、それ」


「……教えないわ」


「! じゃあ言わなくていいです。


でも、これ以上大輔を傷つけないで下さい。


あんな大輔の顔、見たくないんです」


「……マユちゃん、本当に大輔君の事、好きなのね」


「あなたに言われたくありません!」


マユが走り去る足音が聞こえる。


そっと、その場を離れ、仕事に入る。



「あれ、大輔君もう来てたの?」


店の中に入ってきた黒澤さんが、


何事もなかったかのように話しかけてきた。


「はい、どこから手をつけましょうか?」


「さっき注文が入った赤い薔薇の花束を作って届けて。


住所は注文書に書いてあるから」


「はーい」



赤い薔薇のアレンジをしながら、考えていた。


俺が持ってる、黒澤さんの欲しいもの。


それって何だろう?




薔薇の棘が指を傷つける。




続く