16
黒澤さんと、二人で歩く。
以前のようにはしゃぐ事もなく、静かに。
月が柔らかな光で照らす歩道。
濃い影が、足元で枯葉の音を立てる。
アンティークなアパートメントの階段。
音を立てないように気を付けて歩く。
以前は何も考えずに上っていたのに。
後ろ手で閉めるドア。
ドアの隙間から、秘密の空気が漏れ出す。
ほどいた髪から、花の香りが微かに漂う。
キャンドルの光に浮かび上がる、柔らかな曲線。
掌から伝わる温もり。
重なる鼓動。
体の奥からから押し出される声が、俺の鼓膜を震わせる。
全てを逃さないように、五感が研ぎ澄まされる。
どうしたら、黒澤さんは悦ぶ?
ぎこちない手が、探検の旅に出る。
その動きに、敏感に反応する肌が泡立つ。
泡立ちが俺にも伝染する。
もっと。
もっと。
一瞬不安になって、目を覗き込む。
潤んで大きくなった瞳が、俺だけを映す。
お互いの目の中の自分を見つめて、
口移しで喜びを伝える。
大きな波が、二人を攫う。
熱を持った体を、シーツの海に浸して冷ます。
月光に照らされた胸元に、季節外れの桜の花びら。
無邪気な悪戯。
そうして二人は、子供のように絡み合ったまま、
眠りにつく。
続く