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「このシチュー、美味しい!」


「ありがとう、たくさん食べてね」


和気あいあいとした雰囲気。


何故この二人が一緒のテーブルに着いてるのだ。


俺をのけ者にして。



「大輔、何してんのこんな所で」


「あ、いや……」


「この子誰?」


「あ、っと、同じクラスの……」


「! 彼女?! いやぁん可愛い! 好みー♪」


「えっ! 黒澤さん女好きだったんですか?!」


「何言ってるの? 私黒澤です。大輔君のバイト先の人」


「……マユです」


「マユちゃん、良かったらこれから家来ない?」


「えっ?!」


「シチューいっぱいあるのよ。それにビールも買ったし」


「……行きます」


「えええ?!」


何この展開。



そして盛り上がる女子2人。


「大輔君ったら、彼女いるって教えてくれないんだもの」


「私も、酒盛りしてるのが女の人だって知らなかった」


「何で黙ってたのー?」


言えねーって。


「いや……言うタイミングがなかっただけで」


「ずっと二人でこんな楽しい時間過ごしてたなんて、ずるいよ」


「あははジェラシー? これからはマユちゃんも酒盛り仲間だね」


「えー、来て良いんですか?」


「もちろんよー。ね、大輔君」


「もちろん」


嫌だけど。


「バイト始めてから、全然遊んでないしな」



マユが新しいビールを開けようとしてる。


「止めとけよ、お前酒弱いじゃん」


「えー飲みたい」


「二日酔いになるぞ」


「えー」


「ダメ」


取り上げて俺が飲む。


それを奪って煽るマユ。


「ダメだって」


更に奪って飲む。


マユが飲む。


俺が飲む。


黒澤さんが飲む。


! あ……。


マユが飲む。


黒澤さんが飲む。


俺が……空だった。



「大輔君ババ引いたー!」


「がっかりですよ、ちぇ」


「罰ゲーム! マユちゃんを家に送りなさい」


「え?」


「もうこんな時間だもの。マユちゃんのご両親、心配するわ」


時計を見ると、23時過ぎだった。


「まだ大丈夫ですよ。家放任主義だし」


「だーめ。女の子は24時には寝ないと綺麗になれないのよ」


「黒澤さん、24時に寝たためしがないんじゃ」


「あ?」


「なんでもないです」



「マユちゃん、また来てね。店にも遊びにおいで」


「行っていいんですか?」


「うん」


「じゃあ、小さな花束作ってもらおうっと」


「いいわよ、可愛いの作ってあげる」


「やった」


「大輔君、ちゃんと家の前まで送るのよ。


途中で襲っちゃダメだからね」


「襲いませんよ」


「襲ってもいいよ」


「あら、問題発言」


ひとしきり笑って、黒澤さんの家を出る。



ドアをそっと振り返る。


いつもは、もっと遅くまで二人で飲んでいた。


この後、黒澤さんは一人で飲むのかな。


それとも早く寝るのかな。


あの暖かそうなベッドで、一人で。



振り返ると、俺の後ろで、マユが俺を見ていた。


「何?」


「……ううん、行こう」



外はかなり冷え込んでいた。


マユが手を繋いできた。


冷たい手。


「大輔の手、あったかいね」


そのまま、ジャケットのポケットに手を突っ込む。


こうやってマユと歩くの、久しぶりだ。


さっきとは打って変わって、マユは何も話さない。



「……黒澤さんって、良い人だね」


「うん」


「ああいう人、私好きだな」


「俺も」



突然、マユがキスをしてきた。


押し付けるような、強引なキス。


襟元を掴むように、しがみついて。



「好きになっちゃダメだよ、黒澤さんの事」


唇を離したマユの瞳に、黄味を帯びた月が、揺れる。


胸に、マユの体の温かさが伝わる。


何も言わずに、マユを抱きしめた。




続く