4
眠い。
花屋の仕事って、結構ハードだ。
学校があるから仕入れには行かないし、
アレンジメントをする訳じゃないけど。
水の入ったバケツを持ち運ぶ。
近くの店まで花を届ける。
体力勝負。
水は冷たいし、手は荒れる。
花の棘で擦り傷だらけ。
しかも「バーネット」は人気のある花屋だったらしく、
お客さんがひっきりなしに訪れ、接客に追われる。
注文の電話はじゃんじゃん鳴る。
綺麗な花に囲まれた綺麗な仕事。
そんなイメージは初日で吹き飛んだ。
黒澤さんは結構人使いが荒い。
オーナーが暢気な分、黒澤さんが店内を仕切っている。
最初に会った時の、ほんわりした雰囲気はあるものの。
「大輔君、裏から台座取ってきて」
「大輔君、あの照明取り替えて」
「大輔君、お使い行って来て」
「大輔君、掃除!」
大輔君、の後にお願いのような指令。
俺は僕かー!!
黒澤さんは、俺より頭一つ背が低い。
俺の肩に、頭のてっぺんがくる。
なので、隣に立つと、俺を見上げる格好になる。
俺から見たら、すくい上げるような上目遣い。
黒目がちの目が、俺を見上げる。
口元は、笑っているみたいに口角が上がってる。
大人なのに、小さな女の子みたいで、可愛い。
断れるヤツがいたら、お目にかかりたい。
そんなこんなで、毎日疲労困憊。
そして夜は、黒澤さんが目の前にちらつく。
朝に近づくにつれ角度を変える、移り気な月だけが、
眠れない俺に付き合ってくれる。
そんなこんなで、今日も睡眠不足。
「何か最近疲れてない?」
教室の窓からぼんやり外を見ていた俺に、
真由美が声をかけた。
まぁなんというか、彼女ってやつだ。
「バイト忙しいの?」
「うん」
「全然遊んでくれないんだもん。つまんないよ」
「俺もこんなにバイト三昧になると思ってなかった」
「じゃあ、今度の日曜休んで遊びに行こうよ」
「日曜は休めないよ、店混むし」
「もー、推薦決まったら遊べると思ってたのにー」
「免許取る為だからさ。車買ったら乗せてやるからさ」
「絶対一番に乗せてよね」
「おう」
「卒業旅行も考えといてね」
真由美はちょっと周りを見回し、俺の頬に軽くキスして、
少し潤んだ目をして耳元で言った。
「遊んでくれないと浮気しちゃうぞ」
「……おう」
続く