眠い。



花屋の仕事って、結構ハードだ。


学校があるから仕入れには行かないし、


アレンジメントをする訳じゃないけど。


水の入ったバケツを持ち運ぶ。


近くの店まで花を届ける。


体力勝負。


水は冷たいし、手は荒れる。


花の棘で擦り傷だらけ。


しかも「バーネット」は人気のある花屋だったらしく、


お客さんがひっきりなしに訪れ、接客に追われる。


注文の電話はじゃんじゃん鳴る。



綺麗な花に囲まれた綺麗な仕事。


そんなイメージは初日で吹き飛んだ。



黒澤さんは結構人使いが荒い。


オーナーが暢気な分、黒澤さんが店内を仕切っている。


最初に会った時の、ほんわりした雰囲気はあるものの。


「大輔君、裏から台座取ってきて」


「大輔君、あの照明取り替えて」


「大輔君、お使い行って来て」


「大輔君、掃除!」


大輔君、の後にお願いのような指令。


俺は僕かー!!



黒澤さんは、俺より頭一つ背が低い。


俺の肩に、頭のてっぺんがくる。


なので、隣に立つと、俺を見上げる格好になる。


俺から見たら、すくい上げるような上目遣い。


黒目がちの目が、俺を見上げる。


口元は、笑っているみたいに口角が上がってる。


大人なのに、小さな女の子みたいで、可愛い。


断れるヤツがいたら、お目にかかりたい。



そんなこんなで、毎日疲労困憊。



そして夜は、黒澤さんが目の前にちらつく。


朝に近づくにつれ角度を変える、移り気な月だけが、


眠れない俺に付き合ってくれる。



そんなこんなで、今日も睡眠不足。



「何か最近疲れてない?」


教室の窓からぼんやり外を見ていた俺に、


真由美が声をかけた。


まぁなんというか、彼女ってやつだ。


「バイト忙しいの?」


「うん」


「全然遊んでくれないんだもん。つまんないよ」


「俺もこんなにバイト三昧になると思ってなかった」


「じゃあ、今度の日曜休んで遊びに行こうよ」


「日曜は休めないよ、店混むし」


「もー、推薦決まったら遊べると思ってたのにー」


「免許取る為だからさ。車買ったら乗せてやるからさ」


「絶対一番に乗せてよね」


「おう」


「卒業旅行も考えといてね」


真由美はちょっと周りを見回し、俺の頬に軽くキスして、


少し潤んだ目をして耳元で言った。


「遊んでくれないと浮気しちゃうぞ」


「……おう」



続く