伊丹秀敏師、曲師である。
曲師とは、浪曲で三味線を弾く人のこと。
東京では沢村豊子師と並び称される名曲師だった。
豊子師匠も今年亡くなられた。
伊丹師匠とは一度だけ共演したことがある。
浪曲で「牡丹燈籠」をやって
私は人形で伴三を演じたのだが、
訪ねてくる女二人が幽霊だと気付くところで
息を深く吐いて、台詞を言う、
その絶妙な間で三味線がチンと入る、
しかも本番になって初めて。
音を聞いたとたん台詞は腹の底までぐっと落ちて
絞り出すように言っていた。
もちろん気分は良いに決まっている。
台詞をしゃべりながら
「(三味線が)上手いな」という気持ちと
「あっ、やられた」という気持ちが
同時に起こっていた。
お会いするといろいろお話するのだが、
師匠は私の手を握ってニコニコしながら
答えて下さった。
結構可愛らしいお方だった。
豊子師匠とは時々食事を一緒に取りながら
いろいろお話を伺った。
生い立ちを飾らずポンポン言う方だった。
僅かな間に巨星を二人も亡くしてしまった。
短い時間だけれどもご一緒できたことは
私の財産だ。
心よりご冥福をお祈り申し上げます。
合掌