大仏マンのお遊戯 -3ページ目

大仏マンのお遊戯

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観覧車に乗ったリオンと紅輝の間に、しばらく沈黙が流れた。

先に口を開いたのは、紅輝だった。



「この観覧車は一周15分。テッペンにに行くまで、あと5分ちょっとかな」



紅輝が外を眺めながら、そう呟いた。



「何を企んでいるんだ」

「まぁ、そろそろちゃんと話そうかなって思ってさ。ここなら誰にも聞かれないし、逃げる事も出来ないからね」 

「逃げてるのは、そっちだろ」

「まぁそう言うなよ。どうだろう?テッペンに行くまでは、リオン君の質問に俺が答える。で、テッペンから降りるまでの時間は俺の話を聞いてもらう。どう?」



紅輝はそんな提案をした。リオンからすれば、今まで聞けなかった事を聞くチャンスだ。

リオンは紅輝の提案に乗った。



「良いだろう、じゃあまず俺からだ。お前は一体誰だ」

「いきなり大雑把な質問だね。まぁいいや。俺の名前は八木紅輝。歳は君たちよりも少し歳上。高校は宝星高校じゃなかったけど、よく知ってた。昔はバンドをしていて、今はフリーで曲を作ってる。こんなもんかな?」



紅輝は一気に話すと、一息ついた。



「あんたの素性はわかった。で、何で俺たちに近づいてきた?」

「さっきも言ったけど、俺は作曲をしてる。それがそこそこ評判で、色んな所から曲を作ってくれって頼まれてるんだ。それ自体は有難いことだし、引き受けても良いと思ってる。でも、ただ曲を描くだけじゃあ、つまらなくて。そこで一つ良い事を思い付いた」



紅輝は指を一本立てると、ニヤッと笑って言った。


「俺が曲を描きたいと思うアーティストを、俺が作ってしまおうってね」




紅輝の発言を聞いてリオンは驚いた。

有名なプロデューサーの話をテレビで見たりして何となく知ってはいたが、本当にこんな事考える奴が身近にいたとは。



「なるほどな。つまり、あんたのその突拍子もない考えに、俺も巻き込まれたって訳か」

「まぁ、そういう事かな」

「なぜ俺だったんだ?」

「これ思い付いてから、才能ある人達を集めてた。歌が上手い人、ビジュアルが良い人、感情表現が豊かな人。そんな中で、君を見つけた。君のダンスには、何か説明出来ない、人を惹きつける魅力があった。でも、まだ不十分だった。どうすれば君の才能を開花させられるかと悩んでいた時に、もう一人の天才に出会った」

「三河か」

「そう、三河謙二君。彼は昔、バレエの神童と言われていた。そんな才能ある二人が同じ学校に居たなんてね。だから二人に競わせて、お互いに高め合ってもらおうってね」

「そして、俺はまんまとその策略にはまって、対決をしたって事か」



紅輝の思い描く通りに自分が行動してしまった事が、リオンは何だか腹立たしかった。

もうじき観覧車も頂点に到着する頃、リオンは最後の質問をした。


「ここまでの話を聞いて、俺がお前の計画に乗ると思うのか?」

「それは分からない。でも、時間はまだ半分あるしね。ここから先は俺の話を聞いてもらおうかな?」



そう言って、今度は紅輝が質問を始めた。



「リオン君は卒業したら、何をするの?」

「親の手伝いをしに、海外に行く」

「でも、それってリオン君のやりたい事じゃないよね?リオン君がやりたい事って何?」



紅輝の問いかけにリオンは少し考えた。

海外に行くと言ったのも、日本でやりたい事がなかったから言っただけで、別に親の仕事がしたいという訳でもない。



「自分が心からやりたい事じゃなかったら、ワクワクする事も無いだろ?」

「だからと言って、ダンスをするのか?ダンスは嫌いじゃないが、この先続けていってもそんな風に思える事があるとは考えられない」


紅輝の言っている事も分かる。が、どうしても日本に残ってまでダンスをやりたい理由が見つからなかった。



「……だったら、俺と勝負しないか?」



紅輝はリオンに向かって、ニッっと笑いながら言った。


「君の海外行きを1年延ばしてくれないか?やりたい事もないのだから、それくらい問題ないだろ?それで君から貰った1年で、俺は君がワクワクするような状況を必ず作る。もし1年経っても君が面白くないって思ったら、その時はどこに行こうが好きにしてくれて構わない。もう俺は君を止めないし、君にむやみに関わったりしない。その代わり、もし面白いと思ったら……」



紅輝は自分の膝に肘をつきながら前かがみになり、リオンに近付いた。



「俺と一緒に今度は芸能界の『テッペン』の景色を観ようじゃないか」



紅輝はニヤッと笑って言った。

その発言を聞いたリオンは、しばらく考えた。
そして、紅輝を見ながら口を開いた。



「ダメだ」



そう言って、リオンも紅輝と同じように自分の膝に肘をつきながら、前かがみになって紅輝に近付いた。



「……半年だ。半年でつまらないと思ったら、俺の勝手にさせてもらう。それでいいなら……お前のその気まぐれに付き合ってやるよ」



リオンも同じようにニヤッと笑って言った。

今までのリオンならば悩むまでもなく断っていた。

しかしこの1年、良くも悪くも紅輝のお陰で色んなことがあった。もしかしたら、こいつなら自分の事を楽しませてくれるのではないか。そう思ったら、何だかほんの少しだけワクワクしてきた。



「交渉成立だね」


そう言って二人はハイタッチをして、お互いに笑った。



「そういえば三河にもこの話したのか?」

「したよ。まぁ断られちゃったけどね……」










6人で出掛ける何日か前。

紅輝は謙二にも同じ話をした。



「……そう。あなたがアタシ達に近付いて来たのは、そういう理由だったのね」

「まぁそういう事。どう?一緒に面白い事やってみない?」


「残念だけどアタシは止めておくわ。自分の事は自分が一番分かってる。リオンはこれからかもしれないけど、アタシはもう昔みたいに踊れないの。それに目標もあるしね」

「目標?」

「アタシ、学校の先生になりたいの。先生になって、リオンやアタシのようなちょっと変わった生徒達の事をちゃんと見て、認めてあげて、見守っていきたいの」

「そっか。まぁ、それなら仕方ないね。応援してるから頑張ってね」










「……ってな感じ」

「随分とあっさりしてるなぁ……」

「まぁ、こう言っちゃあれだけど、謙二君はたまたま見つけただけだからね。そこまで粘る理由もないし」



そんな話をしていると、そろそろ観覧車も終わりが近付いて来た。



「もうすぐ地上だし、最後にリオン君に言っておきたい事がある」

「まだ何かあるのかよ」

「ここからは、こないだ電話で言った話だよ。まず……」



あたりも暗くなりキラキラ輝く街が下に広がる中、終わりがけの観覧車で何やら真剣に話している二人だった。