ダンス対決から数日が経った。
万里奈もクラスに馴染み、女子とも普通に会話をしていた。
一方のリオンは、相変わらず外の景色を眺めたり、音楽を聴いたり、今までとかわりない日常を送っていた。
ただ一つ変わったことといえば、
「リオン‼︎さっきの数学の問題、教えて‼︎」
「なんでお前に教えなきゃいけないんだ」
「リオンが数学の成績一番良いんでしょ。ねぇ、教えて‼︎」
「嫌だ」
万里奈が『リオン』と下の名前で呼ぶようになったくらいだ。
リオンは変わらず、万里奈のことを煙たがっているが。
そんなある日の放課後。
万里奈は突然職員室に呼ばれた。
「何で呼ばれたんだろう」
授業中の素行も悪くない万里奈は、自分が何故呼ばれたのか、分からなかった。
職員室に行ってみると、万里奈の他にも、数名の生徒が呼ばれていた。その中には翠も居た。
「あっ‼︎翠ちゃんも呼ばれてたんだ」
「そう、全然理由が分かんないけど……」
「だよね。あなたも呼ばれた理由分からないの?」
万里奈は、一緒に集められたもう一人の女子に訊ねた。
「は、はい‼︎うちもそうなんです……」
突然話しかけられて驚いたのか、少し大きな声で、もう一人の女子は答えた。
三人が話しをしていると、体育担当の先生がやってきた。
「集まりましたね。ここに居る三人は、先日の体育の時、ダンスのテストを受けていない人達です。ダンスは必修科目なので、このままでは単位をあげられません」
「そんな‼︎」
「慌てないで」
先生が取り出してきたの、文化会館で毎年行われているイベントのチラシだった。
「今年は、この学校でもステージで出し物をすることになったんだけど、あなた達には、このステージでダンスパフォーマンスをしてもらいます。それでダンステストは受けたことにします」
先生のその言葉を聞いて、三人とも固まってしまった。
万里奈達が固まっている頃、リオンはいつもの木の下で、ダンスの練習をしていた。
「やあやあ、リオン君」
すると突然、またあの男がどこからかやって来た。
「……またお前か」
「まぁ、そう睨むなって。どう?謙二君と対決してみて。言った通り、君とは実力が違うかっただろ?まぁ、君も何かを掴んで、結果は引き分けだったみたいだけど」
「お前に言われたから、やったんじゃない。俺より上手い奴が居るなんて、気に食わなかっただけだ」
「まぁ、何でもいいけど。とりあえず、リオン君がやる気出してくれて、良かった」
「ちょっと待て。そもそもお前は誰だ」
「俺か?俺は……それを教えるのは、また今度だな」
男はリオンの後ろを指差した。リオンが振り返ると、向こうから万里奈と翠がやってくるのが見えた。
「あいつらの事はどうでもいいから、お前の……」
リオンが前を向き直すと、既に男の姿はなかった。
「……ほんと何者なんだ、あいつは」
「どうかした?」
万里奈はリオンのところに辿り着くと訊ねた。
「何でもない。それより、お前らこそ何の用だ」
「ねぇ‼︎私達にダンス教えて‼︎」
「はぁ?」
いきなり何の事か分からないリオンは、困惑した。
「万里奈ちゃん。流石に突然過ぎて意味分からないから、ちゃんと一から説明してあげようよ」
「そうだった」
翠に言われ、万里奈はこれまでの事を一から説明した。
一部始終を聞いたリオンは、眉間にしわを寄せたまま黙っていた。
「……どういうことか分かった」
「それじゃあ……」
「断る」
リオンは即答した。
「……そんなすぐに答えなくても良いじゃん‼︎ケチ‼︎」
「おいおい、逆ギレかよ」
万里奈とリオンは睨み合った。
「ちょっと万里奈ちゃん‼︎リオンも‼︎二人とも喧嘩しないの‼︎ねぇ、今回は私からもお願い。合格の条件は創作ダンスで、練習期間も2週間しかない、初心者の私達だけじゃ無理なの。だから、お願い」
翠はリオンに頭を下げた。
しかし、へそを曲げてしまったリオンの機嫌は直ることはなかった。
「翠に言われたって、嫌なもんは嫌だ。それにそんなの俺が教えなくても、適当にやっとけば良いだろ」
「それが出来ないから頼んでるんでしょ」
「もういいよ、翠ちゃん。行こ‼︎謙二君に教えてもらおう‼︎」
そう言って、万里奈は学校の方へ戻って行った。
「それなら最初っから、三河のところ行っとけよ‼︎」
リオンは万里奈に向かって叫んだ。
万里奈はクルッと振り返ると、べぇ~っとリオンに向かって舌を出し、また学校の方に歩いて行った。
「はぁ~……あんたってホント馬鹿だよね」
「何だと?」
「そんなのあんたに頼むより、最初から三河君に頼んだ方が、スムーズに事が進むに決まってるでしょ」
「じゃあ何で」
「自分で考えたら?」
そう言って、翠も万里奈の後を追って、学校に向かった。
「意味わかんねぇよ」
独り取り残されたリオンは、そっと呟いた。