一部の格闘技ファンの間で話題を呼んだ、AbemaTVの「倒せば1,000万円」シリーズの『那須川天心編』が無事に終了した。
「話題を呼んだ」というよりは、主に現役・OB問わずボクサー及びボクシングファンから顰蹙を買っていたわけだが、さすがは“神童” 那須川天心。引退後とはいえ、元世界チャンピオンをスピードで完封しただけでなく、「不敗」を誇るアマチュアボクサーまで圧倒してのけた。
それが即、「ボクシングでも通用する」とはならないことは承知しているが、まだ20歳ということを鑑みれば、更にこの先が楽しみになってきたというものだ。
亀田興毅との対決は、さすがに分が悪いと見ているのだが、天心なら・・・と思わせてしまうところはさすがである。
というわけで、AbemaTVの企画だが、個人的に最もインパクトがあったのは青木真也の「(計画的と思われる)どたキャン騒動」ということになる。
多くの格闘技ファンも同様だと思うのだが、なぜ、このような事態が起こってしまったのか。これは検証する価値があるように思える。
詳細は既に各種サイトで報じられているため、ここでは割愛するが、一つ見逃せないのは、青木がどたキャンについて「これぞプロレス!」的な言い回しをしている点だ。
どれが「プロレス」なのかは、この令和の時代、人それぞれ感じ方が違うと思うので、「プロレスとはこうだ!」と云うのは差し控えるが、確実に言えるのは、青木の言動(言い訳?)がスベっているようにしか見えないこと。
何でこんなことになってしまったのか。
果たして、今回の青木の行動は「プロレス的仕掛け」と言えるのか。
青木真也といえば、その実力と共に、頭脳明晰かつシニカルな言動で知られている。そして、時折、誰に向けるわけでもなく(強いて言えば大衆?)、思い切り皮肉めいたことをいうことも少なくない。
3月のONE興行でライト級王座を奪還した際にも、意味不明なマイクアピールをしていた(各自調査)のも記憶に新しい。
個人的に印象深いのが、もう何年前になるか、DREAMでビトー“シャオリン”・ヒベイロとの夢の対決が実現した際、誰もが「究極の寝技対決」を期待したのに、延々ミドルキックを打ち続け、挙句の果てに「どうでしたか? ムエタイって最高でしょ!」と言い放ったことがあった。
「勝つために戦っている」青木にとって、ファンが望む望まないに関わらず、シャオリンに寝技で挑むよりは打撃で勝負した方が効率がいいのは明らかで、「競技者」として考えれば青木は間違いなく正しい。
ファンのために寝技で挑んで負けたら、ボロクソに叩かれるのは自分なのだから、青木を責めることは誰にもできないはずだ。
しかし、試合後のマイクアピールで「ムエタイ最高!」などと言う必要はないと思うのだが、そこが青木の青木たる所以。私のような凡人とはレベルが違う。
察するに「なぜ寝技勝負を挑まなかったんですか?」と聞かれることを避けるために、あえて先手を打ったのだと思うのだ。会場はシラーっとなったが、このマイクをしたおかげで、どう聞かれても、批判されても「ムエタイの有効性」を説くことで、話を逸らすことができていた。
これなどはスベった例と言えるし、アンチを増やす原因でもある。ただ、そこには青木なりの計算が働いているような気がする。
一方で近年はプロレスのリングにも上がっている青木だが、どうも「プロレス」という言葉を誤って解釈しているように感じられてならない。というか、青木の口から「プロレス」という単語が出ると途端につまらなく感じてしまうのだ。
青木だけではない。
古くは坂口征二、アントン・ヘーシンク、ウィレム・ルスカ。近年では小川直也、澤田敦士など、柔道出身者の多くは、どうもプロレス的センスに乏しいように感じてしまうのは気のせいだろうか。(格闘家だが、吉田秀彦のマイクも毎回失笑ものだったし)
オリンピックには出ていないが強化選手に選ばれていた武藤敬司はどうなんだ、という声もあるかもしれない。
しかし初期の武藤(スペース・ローンウルフ時代)は身体能力はあっても、さほどファンに支持されていなかった。その後、プエルトリコやアメリカで、それこそケンドー・ナガサキやマサ斎藤といった、一匹狼のプロレスラーに揉まれたことで開眼したように思う。
ただ、橋本真也などは柔道をやっていたが、全身これプロレスラーという感じだったし、村上和成やグラン浜田、小原道由など個人的にはプロレスセンスを評価している選手もいる。
そう考えると、「柔道出身」というのがネックではないのだろう。
あまり書きたくないので名前は秘すが、アマレス出身者でもいつまで経っても「強さは感じられるんだけどセンス悪いなぁ~」という選手もいるし、大相撲出身者でも横綱までいった北・・・ムニャムニャムニャ。
アメリカでは、柔道のオリンピックメダリストにしてUFCの初代女子バンタム級王者だったロンダ・ラウジーという成功例もある。
やはり、そこは個人の問題なんだろうが、ここまで書いてハタと気付いたことがある。
青木、小川らの共通点は何か?
おそらく、子供の頃からのプロレスファンではないということではないだろうか。(ロンダがロディ・パイパーファンだったことは有名な話)
むしろ、競技に打ち込めば打ち込むほど、プロレス及びプロレスラーを下に見ていたと思われる。だからこそ、「プロレス的仕掛け」とは口にするものの、実に薄っぺらい、上澄みだけを掬ったようなことしか出来ないのだと思う。
番組の企画に目くじらを立てるのも大人気ないと言われようが、プロレス者は常に「夢とロマン」を追い続けるものだ。
もし、那須川天心と青木真也がボクシングルールとは言え、リングで対峙したら・・・とワクワクするのは当然で、それをどたキャンすることが「夢とロマンを与える」とは到底思えない。
かのアントニオ猪木はファン心理を逆手にとって、時に平気で裏切ることをしたが、常にそこには「ファンを驚かせたい」という「本気」があったのだ。そこをはき違えてはいけない。
「驚かせる」と「失望させる」は確かに紙一重だが、あまりに茶番過ぎるとファンから失笑どころか罵声を浴びせられる(猪木サンなら海賊亡霊やTPGがそうかな)。しかし、猪木サンはそういった批判に一切、言い訳をしない潔さがあった。おそらく「失敗したな」という反省があったからだと思う。
それを「理解できないファンが悪い」とばかりに言い訳するからファンからの支持を得られないし、何より格好悪い。そこを「プロレス的センスが無い」と言っているのだ。
今回ONEでのタイトルマッチで王座を手放したわけだし、年齢的にも更にプロレスに軸足を移してきそうな気配があるが、今のままなら多くのファンの支持を得るのは難しいように思う。
青木真也に、プロレスへの愛はあるのだろうか?
(プロレスをするのに、愛なんか関係ない、というのも、また青木らしいがw)