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D フランク ボンドのブログ

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彼は世間とは一線を置いた少しかわった人物である。

紅茶とジャズと写真をこよなく愛し、人を嫌い世間を嫌う。
この社会は不当であり不平等であり、そして人間というある主のウィルスの増殖によって支配されたマトリックス。人が人を作り、人が物や文化を創り、そしてそれらを破壊する。
人類という一マトリックス内で行われているならまだしも、地球という惑星、またそこを飛び出して宇宙という巨大な世界へも足を踏み入れようとしているウィルスこそ人類のだと彼は常々口にしていた。

そんな彼の仕事は私立探偵である。

しかしそんな彼にも心を許すいくつかの場所がある。

このストーリーでも重要となるそのスポットを紹介しようと思う。

一つは六本木の美術館そばにある紅茶店『ヘンリーティーハウス』。彼はそこで一日の大半を過ごし、探偵事務所として裏利用している。彼は携帯電話をもたないからそこの固定電話が彼への昼間の窓口となり、そこのオーナーの美幸も彼の心を許す人物の一人だ。
彼とみゆきはロンドンのオールドマーケットで知り合った。
美幸が遭遇したスリ事件を解決したことがきっかけで付き合いが続いている。


そして、阿佐ヶ谷にある『ジャズバートミー』も彼の行きつけの店の一つだ。
トミーのオーナ田口中とは彼の唯一の幼なじみでもう20年近い付き合いになるだろうか。
『ジャズバートミー』は読者の方々も既にわかるだろうが彼の夜の窓口となる。
彼は毎晩この店に訪れビルエヴァンスやジョンルイス、ソニークラークなどの世界にどっぷり浸かり好みのジャックダニエルに酔いしれる。

最後に彼が唯一娯楽を求めいく店がある。
新宿歌舞伎町の中心部に店を構えるショーパブ『スワン』。
この店は彼が学生時代から通っている店で、男女に加えニューハーフのダンサーが織りなすショーはまさに異様なエキゾティックなショーであり、洗練された彼のセンスを一発で魅了した。
この店のオーナーHARUはかなりの情報通でもあり、彼が解決してきた難事件の情報の多くも彼から提供されたものである。
またダンサーたちも交流があり、その中でも蓮、ミキ、ゆう、キティーとは特に深くつながっていた。


そして最後になるが彼の相棒とでもいったらいいだろうか。
彼とコンビを組み5年がたつ、フリーのカメラマンhide。
彼は多くの情報と鋼の精神で彼を常に支え、ともに難事件を解決してきた男である。


この物語に必要な彼の生活面での情報はせいぜいこんなものである。
ではそろそろ物語を始めるとしよう。


2014年の2月某日、彼はいつものようにスキニーパンツに黒のシャツ、それにサンローランのスカーフをエッフェル塔結びであわせ、その上にジャケットにグレーのロングコート、大きめのつばのハットという出で立ちで六本交差点から美術館の方面に歩いていた。
極寒とまではいかないが昼間だというのにそれは薄暗く、風の冷たい昼下がりだった。
いつものように彼はヘンリーティーハウスのドアを開けると呼び鈴の役目のベルがからんからんと音を立て鳴り響く。
店内には高給取りのご夫人らしき中年の女性と、アパレル関係の上役風の女以外誰もいない。
彼は茶葉販売コーナーのサンプルに立つ彼女たちをかわしまっすぐ店の奥に進み、いつもの窓際奥の席に腰を落ち着かせた。外が寒く少し冷えた手でテーブルにおかれた呼び鈴を鳴らすと、ハーブの調合室からオーナーの美幸が現れた。
『あら、今日もお一人ですのね。たまには誰かといらっしゃればいいのに。本当にお友達がいないのね』
と、彼に話しかける。
『エキナセア』
『あらあら、今日は会話もしたくないのかしら。はいはい、ただ今おもちしますわ。』
美幸は奥へと下がっていった。

コートを脱ぎ、席の脇にあるラックに掛け、帽子を帽子掛けに引っ掛ける。そしてジャケットの内ポケットから愛用のジッポとジタンを取り出しジタンに火をつける。
(ご存じない方のために補足しておくが、ジタンとはフランス製の黒タバコで芳醇なタバコ葉の香りと、渋みの強いタバコである。)
まさに至福の一時。深く吸い込み香りと渋みを味わいながら煙を吐き出す。
外は風が強いのか、通りの女のストールが風になびいている。
『お待たせいたしました。エキナセアブレンドのアールグレイティーです。』
美幸が紅茶とビスケットをトレーにのせ席に運んできた。
『どうも。』
『今日はエキナセアなんて。風邪でもこじらせましたの?』
『いいえ、しかし少々のどが痛むのです。だからエキナセア。』
彼は少し口角をあげ笑みをつくる。
『そうでしたの。ではごゆっくり。』
そういうと美幸は他の客への接客へ向かった。

彼は暖かい紅茶を一口含む。
『エキナセア、ジャーマンカモミール、レモングラスに・・・・ジンジャーフレーバー、それからこの甘みはリコリスに蜂蜜が少々といったところかな・・・・』
後ろから美幸が突如話しかける。
『さすがね。よくお分かりですこと』
『あぁっ・・・・うん。まぁ・・・・これぐらいは普通にわかるよ。』
さすがは美幸である。彼の喉の痛みを最初のコンタクトで察し、ジンジャーフレーバーと蜂蜜を入れるとは。
彼はもう一本ジタンに火をつけると紅茶を一口飲み、ビスケットを一口かじった。
甘さの抑えめのビスケットがほんのり口に広がり、小麦と卵の香りが遅れて鼻に広がる。そしてもう一口紅茶を飲むと口の中で完成された至福の味とかわる。
二、三時間はたっただろうか。外はだいぶ暗くなり、帰宅姿の会社員の姿も増えてきた。そろそろ店を出るかと彼はかけてあるコートと帽子を手に取り呼び鈴を鳴らす。美幸が現れる。
『チェックで』
美幸が伝票を彼の席にもってきた。
彼は二千円を出しそのまま店を出た。
彼はいつもおつりは受け取らない。
店を出た彼は六本木駅方面へ歩いていった。道中で帰宅する人々をかわしながら駅へと急ぐ。今日は少し寒すぎる。早く駅に着きたいと彼の歩調は少し早まる。六本木駅から日比谷線に乗り恵比寿まで出て、JR山手線に乗り継ぎ新宿へ。今日はスワンに行こうか悩んだが、オープンまではまだ軽く二時間近くあるし、のどの調子も芳しくない。彼は新宿から中央線に乗り込み阿佐ヶ谷駅で下車した。南口を出てすぐ左へ曲がり、マクドナルドの脇の道にあたる一番街を奥へと進んでいく。一番街のちょうど中間あたりに位置する古びたスナックの脇の階段を二回へと上がっていくと木製の扉が現れそこの扉を奥へ通す。ここが彼の夜の事務所となるジャズバートミーである。オーナーの田口中が声をかける。
『いらっしゃい。今日も一人か?』
『どうも』
『いつものでいいか?』
『頼む』
後ろの棚からバカラのロックグラスを取り出し、クリスタルのようなアイスをグラスにからんと流し入れ、そこにジャックダニエルをなみなみと注いでいく。
ジャズのレコード盤をモチーフにしたコースターを彼の前に滑り込ませその上に水滴がついたジャックダニエル入りのグラスを静かに出す。
『どうも』
『まぁ今日もゆっくりしていけよ。外は寒いし、これからさらに冷え込むらしいからな。』
『今日はあまり体調も芳しくないんだ。二、三時間でかえるよ。』
『あぁそうかい。好きにしてって』
しばらくの間沈黙が流れる。
田口が彼の前にチーズとアーモンドを差し出す。
『サービスだ。あわせてくれ』
『あぁ・・・・。どうも』
『そう言えばあんたに伝言がついさっきあったんだ。電話がかかってきた。仕事の話だとよ』
『内容を端的に頼むよ。』
『殺人事件の捜査依頼だとさ。』
『殺人?それなら警察が動いてるだろ?僕の出る幕じゃない。』
『何でも、警察も難航しそうな怪事件だそうだぞ。』
そこで田口が含み笑いを見せた。なぜなら彼の口角があがるのをみたからだ。
『詳しく依頼内容を話してくれ。』
『じゃあ依頼主から。東京都北千住にお住まいの森口ゆかりさんで、妹さんの森口裕美さん殺害の捜査依頼だ。3日前に妹と連絡が全くつかなくなり、心配したゆかりさんは東京都練馬区の光が丘近くにある彼女のアパートを訪ねた。夜22時をとっくに過ぎているのに全く応答がなく仕方ないのでその日は一回自宅に引き上げたらしいが、次の日早朝に再度妹宅を訪ねたらしいんだ。何でも親父さんが入院したことを伝えたかったから急ぎのようだったらしい。しかし何度呼び鈴を押しても応答はなく、再度だめもとで携帯に電話してみたところ中で着信音がなっている。妹は中にいると思ったゆかりさんは何度もドアをたたき彼女を呼ぶも全く応答がない。不思議に思い管理会社に連絡し、大家に彼女の部屋の鍵を開けてもらうと寝室で全身を滅多指しにされ、舌と右手薬指を切断され、心臓をえぐりとられた妹さんを発見したそうだ。その後警察の現場検証も入り、犯人像としては裕美さんに相当の怒りをもった者の犯行ではないかとの見解になったらしい。殺害日は発見の二日前との見解も出た。一応親近者からしらみつぶしに調査していくとのことらしいが。この事件の怪奇なのは死体の状態もそうだが裕美さんの部屋からはいっさいの指紋らしきものが検出されていないらしい。しかし、計画的犯行ともどうも考えづらい点も多々あるらしく、滅多指しにした状況からみても衝動的犯行の可能性が高いようだ。現にアパートの前にすむ本間さんって言う家族の証言では発見二日前に隣で怒鳴り合う声が聞こえたとの証言も出てるとか。』
『なるほど・・・・。確かに奇妙な事件だね。』
『どうだ?この依頼、受けるか?』
『森口ゆかりさんに了解いたしましたと伝えてください。あと、日中の連絡先として六本木のヘンリーティーハウスの番号も教えておいてください。』
『わかった。』
田口が空いたグラスにジャックダニエルを入れようとするのを手で制して彼は千円をカウンターにおきトミーを出た。
風の強い一番街を高円寺方面に歩きながら彼は家路につく道中で気を引き締める思いをした。
『始まりますね。また僕の仕事のようです。』
怪奇事件の扉に彼は手をかけようとしているのだった。


続く