「鶴の恩返し」は、鶴が人に化けて、恩を返す話でございます。

舞台「夕鶴」では、あの坂東玉三郎がおつうを演じましたが、
ご覧になられた方はいらっしゃいますか?

このヴァリエーションで言えば、「蟹の恩返し」なども考えられてしまいます。
今日は、その「蟹の恩返し」を披露いたしましょう。

あるところに、子供にいじめられていた蟹を助けた男がおりました。
そして、男の家の戸を、夜叩く音がいたします。

何事かと開けてみれば、そこには目玉の飛び出た女が立っていて、
この家に置いてくださいとのこと。

仕方がないので、家においてやると、
この女がこれがまたよく働く女で、家業の床屋の手伝いをする。
お客の髪を切るのがうまいし、仕事も早い。
ちょきちょきちょっきん、ちょっきんなと切る。
目の飛び出た女がおもしろいし、腕もいいということで、
客は増え、店は大繁盛となる。

しかし、どうしてこの女はこんなに腕がよいのか。
どこかで修行でもしたのだろうか。
どのようなハサミ使いをするのであろうか。
男は気になって、女の手元を見ようとする。

すると女は、
「わたくしの仕事の最中は、手元だけは見ないでくださいまし」
しかし、「見るな」と言われれば言われるほど、気になって仕方がない。

男は,或るとき、ついに鏡に映っている女の手元を見てしまう。

すると女はなんと、ハサミを使わずに自分の両手で、
お客の髪を切っているではないか。

なるほど、これでは仕事が早いわけだと感心していると、

「ついに見てしまいましたね」

「わたくしは、いつぞやあなたに助けられた蟹でございます……」

……というのが、「蟹の恩返し」でございます。


これと同じパターンで、「亀の恩返し」というのもございますね。

或るとき、漁師の太郎が海辺を歩いていると、
子供たちが大きな亀を捕らえて遊んでいる。

「これこれ、おまえたち、それでは亀が可哀想ではないか。
海へ放しておやり―」

あ、これでは、ただの「浦島太郎」ではありませんか。


…………お後がよろしいようで。