病院で事務職として働いていた僕は「言語聴覚士になりたい」と一念発起!…46歳の時でした。
そして48歳で国家試験に合格して、言語聴覚士として同じ病院で働き始めました。
ブログ記事では、当時のことを振り返りながら綴っていきます。
今回は、集団訓練についてのお話です。
言語訓練には個別訓練の他に集団訓練というものがあります。
読んで字の如く、2人以上の患者様に対して訓練を実施するのです。
僕は自分が言語聴覚士になって働き始めるまでにそのような訓練があることを知りませんでした。
まず、患者様をデイルームに誘導するのですが、これが大変でした。
4人の言語聴覚士が手分けして総勢20〜30名の患者様を車椅子に乗せます。
患者様は複数の病棟にそれぞれいらっしゃいましたので、エレベーターを使っての移動となります。
ほとんど自走出来ない方ばかりですので、車椅子を押していく必要があります。
患者様によっては、バルーンが入っていたり、中心静脈栄養だったりといろいろいらっしゃいましたので、移乗に時間を要す場合もあり、全員揃うのに30分かかることもありました。
歩ける患者様は、全体の1割程度でした。
デイルームに患者様勢揃いの様は壮観でした。
前方のホワイトボードに向かってそれを囲むように患者様を配置して、司会進行係を除く残りの3名が患者様の列の間に入ります。
患者様の疾患や障害の内容・度合いはそれぞれに違っていました。
脳血管障害、神経難病の方が多く、程度の差はあれ、ほぼ認知症を患っており
構音障害だったり、失語症だったり
覚醒良好だったり、閉眼傾向だったり
食事を口から食べられなくて
鼻腔チューブだったり、胃に穴を開けていたり
そうした患者様に対して、日付天気の見当識の確認、氏名の表出、嚥下体操、語想起課題、歌唱訓練などを実施していきます。
お正月、節分、ひな祭りに七夕、クリスマスと季節感を全面に出した内容でプログラムを組み立てていました。
司会の進行に合わせ、3名のスタッフは課題に対しての表出を促すために、個々の患者様に刺激を入れたり、姿勢の崩れや表情にも注意を払って、その時に応じた対応をしていました。
何事もなければ良いのですが、訓練中に容体が悪くなったり、不穏状態にある患者様の対応だったりと予期せぬ状況にもに何度も遭遇し、その都度対応をしていました。
当時はそんなことを月水金と週に3回もやっていたのです。
はっきり言って大変でした(2022年現在は集団訓練は行っていません)
しかし、集団訓練だと期別訓練では引き出せない反応が引き出せることが多々ありました。
例えば、普段は寝たきりで、一言も言葉を発せない失語症で認知症の患者様…
集団訓練に来ると、自分の氏名を名乗ったり「ありがとう」「こんにちは」といった挨拶や、ちょっとした言葉を発したり
また、歌唱訓練では、合唱で皆と一緒に懐かしい歌を声に出して歌ったり、口ずさむような口形を見せたり
…などと目を見張るような反応が引き出せることがありました。
ベッドの上や個別訓練では決して引き出せない反応を引き出す集団訓練。
その効果は患者様の入院生活の他の場面に対しても好影響を及ぼすことが多かったのです。
患者様の認知機能とコミュニケーション意欲が高まり、他職種スタッフとから「患者様とコミュニケーションが取りやすくなった」との声をしばしばいただきました。
集団訓練には、周囲に人がいることでやる気や意欲が高まって良い結果が出る「社会的促進効果」があるのかもしれませんね。
ずっと続いていた集団訓練ですが、いまから5年前に諸事情により中止となりました。
僕が集団訓練から得た学びは
① リハビリ意欲のスイッチは人それぞれに違っている。同じ手技を使っても、それに取り組んでいただくためのアプローチには個人差がある。
② 音楽には、患者様が本来持っている能力を引き出す力がある。
ということでした。
そして
・患者様の個性に応じたアプローチ
・効果が見込める場合の訓練への音楽の導入
の2点は、言語聴覚士になって初期の頃に培われた「自分のリハビリを支える大きな柱」となっています。