僕が大学を卒業してから医療職に就くまでの経歴は以下の通りです。
① コンピュータ会社に就職
② 体外診断薬メーカーへ転職
③ 新規事業に伴う別会社への転職〜退職
④ 紆余曲折の黒歴史
⑤ 病院へ転職
今回は、⑤の病院でのお話です。
当時事務職だった僕が、言語聴覚士のKさんの「仕事」を目の当たりにする出来事がありました。
ある日、病棟を歩いていると、ある居室から声が聴こえてきました。
「とてもうれしいです」
「ありがとうございます」
「前の病院で無理と言われてましたので」
患者様の面会に来ていた家族がベッドサイドで、言語聴覚士のKさんに感謝の言葉を伝えているところでした。
僕は、その患者様の顔を見て直ぐに変化がわかりました。
何故なら、鼻から挿入されていたチューブが抜けて、スッキリしたお顔だったからです。
数日前に、その病室へブラインドの修理に来ていたので気が付くことができたのです。
「確か、あの患者様は鼻腔経管栄養だったはず⁉︎」
だと。
経鼻経管栄養とは、鼻の穴から胃までチューブを入れ、そこから栄養をとる方法のことを言います。
その患者様は脳梗塞を起こし、救急車で運ばれた前の病院で「口からご飯を食べることは厳しい」と判断され、鼻からチューブが入りました。
その後、当院に転院してきました。
そして、言語聴覚士のKさんが担当となり摂食機能療法をスタートさせました。
その結果、
少しづつ口から食べ始め、
必要カロリー数の経口摂取が可能となり
鼻から管を抜く事ができたのです。
リハビリを頑張って、口から食べる幸せを取り戻しベッド上で微笑んでいる患者様。
鼻腔チューブの抜けたお顔は、イキイキと輝いていました。
ちょっとした感動の「光景」ですね。
もし、この患者さんが、言語聴覚士のKさんと出会ってなかったら…
「言語聴覚士ってすごい仕事をやるんだな」
と感心してしまいました。
僕がこの病院に転職してきて、強烈な印象を受けたのが、鼻からチューブを挿入してベッド上に横たわる患者様達でした。
まず見た目が痛々しいこと。
そして、鼻から異物を入れることに衝撃を受けました。
しかし、そのことよりも、生きるための術とはいえ、口から味わって食べられないことを考えると…
酷だと思いました。
ただでさえ辛い入院生活なのに。
そこから食べる楽しみを奪われるのです。
鼻からのチューブの挿入は、患者様の生活の質をどれだけ落とすのでしょうか。
そんなことを思っていただけに、この時見た「光景」は印象深いものでした。
現在僕は、言語聴覚士として、患者様の嚥下障害と日々向き合っています。
そして、事あるごとに、この時の「光景」が思い出され、気持ちを整えてくれるのです。