訴訟前夜① 天使か悪魔かからの続き
突然現れた元妻ユリの旧友、ミユキさんが語ったこと全ては、僕の常識、価値観、倫理観、その他諸々、全部から考えて全く理解できない話でした。
変な汗をかき始め、言葉を失くした僕の前で、ミユキさんの独白は続きました。
「それで私、恐ろしくて、そんな理由で子供作ったら子供がかわいそうだから、絶対にやめなよ、人の道に反してるよ、って何回もユリちゃんに言ったんですよ。
でも、気が付いたら彼女、もう妊娠していて、『やったあ!
』みたいな感じになっていて・・・」
・・・・・頭がガンガンしてきましたが、ここはしっかり話を聞かなきゃいけない。
そうは思ったけれど、ミユキさんの前で、普通の顔をして座っているのが精一杯だった。
(※念のため、会話は全て録音させてもらっていました)。
「今は本当に可愛いと思っているのか、わからないけどね、そんな感じで、全部経緯を知ってたから、何だか私も責任を感じてしまって、子供がどうなっているのか心配で、カイトくんが生まれてからは、しょっちゅう様子を見に行っていたんです」
「・・・・そうだったんですね。すいません・・・」
やたら遊びに来ていたから、よっぽど子供好きなのかと思っていた・・・。
そんな理由だったのか・・・。
「それで、よく遊びに行って子守りもしていたから、カイトくんも私になついてくれて、でもミユキってなかなか言えなくてね。みゅーしゃんとか、みーしゃんとか呼んでくれてたけど、それが可愛くって・・・。
本当にカイトくん、いつも笑ってて、人懐っこくて、可愛い子でしたよね・・・」
少し懐かしむように微笑んだミユキさんの言葉に、ぽろぽろっと涙がこぼれそうになり、僕は思わずうつむいた。
「・・・カイトくんに、会えていないんでしょう? 最後に話したころ、彼女、Dragonさんには『会わせない』みたいなこと言ってたから・・・」
「・・・そうですね」
「そこが心配で・・・。ユリちゃんって、自分の思い通りにならないと、ちょっとおかしくなるっていうか、ものすごいことをする時、あるじゃないですか」
「よくありますね・・・」
「それで、カイトくんが自分の思ったことと違うことをするとね、すごくちっちゃなころから、よく頬をギュッとつねったんですよ。それで、カイトくんが泣くから、私がいるときはびっくりしてやめさせようとしたんだけども。
とにかくそんな感じで、カイトくんのことも自分の思い通りにしようとずっとしてて、思い通りになっていれば可愛がるけど、思い通りにならないときは、カイトくんにすぐお仕置きしたりして、それもあって私、様子見に行って、体に痣や傷ができてると、これどうしたの?っていちいち聞いてね。暗に、見てるよ、私、ってアピールしてたんです。
でもそんなことしているうちに、鬱陶しい奴と思われたのか、お二人が別居して引っ越したりしたこともあって、あまり呼んでくれなくなったし、私も彼女が人としてあまりに恐ろしいことする人だから、お付き合い続けるのも怖いって思って、そのまま疎遠にしちゃったんです。
でもずっとカイトくんが心配で、これはお父さんのDragonさんにいつか言わなきゃって、何年も思ってた。今日、やっと言えて本当に良かった・・・」
・・・決定打だった。
ミユキさんが話したこと全てを、いきなり全部真実と信じ込むほど、僕も単純じゃない。
思い込みや大げさに言ったこともあるかもしれない。
でも、例えそうだったにせよ、「その中には確かに真実もある」と僕は感じた。
正直、もうこれ以上闘いたくない、ののしり合うメールや電話から離れて、平和で安定した生活を送りたい、なにより、絶対に裁判所には戻りたくない、と思っていた部分もあった。
訴えたところで、国際的に悪名高いこの国の司法が、僕のような立場の父親の言うことをどれだけ聞いてくれるだろう。
これまで、どんなに僕が腹立たしく思っても、実際もうどうしようもないとわかっていても、それでもカイトのことを想ったら、ユリがお母さんであることは変わりないし、僕の元妻というよりもカイトの母として、これ以上の争いはなるべく避けて、どうにかうまく付き合えないか、と考えていた。
でも、これまでの全部を考えても、やっぱり、ユリは決定的に何かがおかしいんだ。
普通の人間じゃない。
アメリカではよく映画やドラマでも題材になるけど、「サイコパス」と呼ばれる一種の病気に近いものを持っているとしか思えない。
このままにしておくわけにはいかない。
カイトが危ない。
僕が心を決めたのは、この時でした。
どんなことがあろうと、徹底的に闘う。
カイトを守る―――。
続く
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