北千住が遠いことも、公演回数が4回しかなかったことも、お天気が案の定だったことも、仕事休んだことも、ポスターがツボすぎることも、サロメが美しすぎることも、全部全部ひっくるめて。
やっぱり、東山義久という人は、凄い人なんだ。
昔、母に「凄い」という表現は、物事の醜悪さに使うものだと、何度か意見されたことを思い出したりしていましたが、初回(私の場合、土曜のマチネ)、千秋楽と観終わった後の感想が、みな口を揃えて、「義久さんは、凄い」でした。
それ以上、うまい言葉であのステージをいい表す事が、なんだか未だにできません。それ位、熱い魂の込められた作品のだったのだと思います。
公式から、「サロメ」の情報が解禁された時から、とても期待していたし、楽しみにしていた今回の公演。仕事の都合もあり、3/4しか拝見できなかったのですが、今回はDVDにもなる様ですし、形になって残るのはファンとしては大変有り難い事だと思っています。
まさに、圧巻のステージでした。
余計なことかもしれませんし、ご覧になられた方は抜き書きでもきっとご理解いただけると思うのですが、ちょっと今回は自分の備忘的に書かせていただきました。()内は、主にダンスの時に使用されていた川井郁子さんの演奏曲です。アマゾンのmp3ストア他でちょこっと視聴できます。
何時ものようにあくまでも個人的感想ですので、悪しからず…。
*
幕が上がってブルーのライトに照らされた舞台中央に小さな椅子があって、そこ座る少年の背後から、まるで少年を愛撫するかのように、その頬を撫でたかと思えば、また少し離れて焦らして、足先で突付いたり…唇こそ重ねなかったけれど、三浦くん演じるまだあどけなさの残るこの少年が、目下、少女サロメのお気に入りなのはよくわかりましたし、きちんと着込んだ白のシャツに、編み込みしたロングヘアーのサロメが無邪気に笑いかける姿が本当に少しお姉さんぽいけれど、愛らしく映ります。
義父であるエロド王に呼ばれて宴席に向かうのを嫌がるサロメを従者が抱え上げて無理やり連れてゆきますが、そこも両足バタバタさせたり、エロド王の意向に反して、背を向けて座るサロメ、ホント、嫌い!みたいな表情するから、眉間の縦ジワが目立つしw
エロドがサロメの気を引こうと差し出す赤い酒も、特別な果物(りんごだと思うw)も、みんなサロメは放り投げて、小さく微笑みながら少年の元へと走り去るのだけれど、少年との逢瀬を妨げたのは、地の底からサロメの耳に届く預言者ヨカナーンの声で。その声に興味を持ってしまったが最後、サロメの心は少年からヨカナーンの元へと移ってしまい、王宮使えの兵士たちにヨカナーンに会わせるように詰め寄ります。利ちゃん、泰ちゃん、そして最後にサロメに篭絡される皓平くんの声で、舞台下手から台の上に立て膝をついて横向きのヨカナーンの登場です。ビジュアルは公式出ている黒い装束右手を下手にむけて差し出すようにしているヨカナーンは曲はじまりで立ち上がり、舞い始めます。(sanctuary)そして、そこに舞台上手奥にある階段から降りてくるサロメ。最初こそ、おずおすと、恥らいながら見つめるサロメだったけれど、意を決した様に台の上に立つヨカナーンの素足にそっと手を伸ばして触れます。
そこからまるでヨカナーンの体に蛇のように這い上がるサロメ。
このシーンを目にした時に、エデンの園でイヴを誘惑した蛇のことをうっすらと脳裏で考えていた私でした。
そこから二人の手には、紫色のちょっと太めのロープが握られます。(恋のアランフェス~Red Violin)誘惑と拒絶。ロープをヨカナーンの左手と自分の左手にぐるぐる巻きつけて、愛おしそうに自分の頬に押し当てるサロメのうっとりとした表情とは裏腹にヨカナーンはその美しい顔を凍らせたまま、サロメの両手首を何度も戒めるように高く掲げます。その激しいやりとりの果てに、サロメの片手をヨカナーンがぎゅっと引き上げて突き放します。サロメがその痛みに自分の手を胸に抱きながら、そこの場を後にすると、ヨカナーンはまた元の場所へと帰ってゆきます。サロメは残された台の上(自室のベッドの上?)で、脚をじたばたさせたりして、ヨカナーンに掴まれた手首を抱きながら、ヨカナーンのことを思い眠れぬ夜を過ごします。(アヴェ・マリア)ヨカナーンのことを思いながら、最後にサロメが中指と薬指を口の中に咥えるシーンで1幕が終わるのですが、それが! 本当にエロス!
(実はこの、サロメが自分の指を咥えようとする振付、ヨカナーンとのダンス中にサロメは何度かしようとするんですが、それをことごとくヨカナーンに押しとどめられるみたいな感じのダンスで…ちょっと大人向けの意味深なシーンなのかなって考えたりもしていてました)
そして、2幕はそれこそ、怒涛のダンスで始終します。
なかなか、自分の思い通りにならないサロメにエロド王が申し出ます。
「この月にかけて、命にかけて、お前の望んだものをなんでもやろう。」
確かにそう誓ったエロド王。
原作ではかなり露骨に母親のエロディアと、義父のエロドの思惑みたいなことも書かれてその通りに二人の激しいダンスが繰り広げられた後、階段の上に、後ろ向きでバッと両手を広げた、真っ白な衣装に髪型も替えたサロメが登場します。(passion in Blue)
両手に長い袖。でも胸は剥き出しになったその衣装で、サロメは蠱惑的に、露骨にお尻を振ったり、時折恥ずかしそうに、胸の辺りを両手で隠したり、それとは逆に、長いスカート(本当はパンツですが)の裾をお尻が見えちゃうくらいに捲ったりしながら、エロドの望むようなエロティックなダンスを踊って見せます。曲が終わって、サロメが王に跪くと、サロメが踊ったことに歓喜したエロドと、対照的に、娘の破廉恥な姿を嘆くエロディア。もう一度と言われ、乞われるままに踊るサロメ。(エル・フラメンコ)
この曲は、先の相手を惑わすダンスではなく、欲しいものを手に入れるという望みを叶えてもらうためだけに、必死に踊るサロメの姿に見えて、なんだかいじらしいようにも見えました。
曲が終わって。エロドに向かってゆくサロメが指差す先には兵士が持つ銀の盆。その上にサロメは何を乗せよというのか。サロメはエロドの耳元で囁きます。
ヨカナーンの首。
聖者の首を落とすことで己に降りかかるやもしれない災難に怯えるエロドとは逆に、さんざん自分を呪うような言葉を吐き続けたヨカナーンの首を求めた自分の娘を誇らしげに抱き寄せる母のエロディア。
そして、首切り役人ナーマンによって、ヨカナーンの首が地下の牢からサロメの待つ地上へと上げられてゆきます。(ここって、高所恐怖症の舘形さんがゴンドラにのってライティングの妙で首だけが上がってゆくように見えるのです)
「ヨカナーンはもう目を開かない。ヨカナーンは死んでしまったの?ヨカナーン、私はお前の美しさを飲み干したい!私はお前の美しさを飲み干したい!!」
サロメの自問自答を三人の兵士が口立てます。サロメ自身が一言も発さずとも、サロメの欲望は伝えられてゆきます。
真っ赤な月をバックに、ギリシャ神話の女神のような白い布を纏ったなサロメの元に、まさに天から降ってくる白い布に包まれたヨカナーンの首。それを大事に自分の胸に抱えて、喜びを全身全霊で表しているかのように、はしゃぎ踊るサロメ(インスティンクト・ラプソディ)
曲タイトルの「インスティンクト」は、「本能」と訳されます。
まさしく本能のままに無邪気な笑顔で踊るダンスはいつもの義久さんの自力を見せつけるような力強い歓喜のダンス。
そして、一転してブルーに染まる背景の中に、まるで天から蜘蛛の糸のように、一筋、二筋と砂が(意図してるところは、みんな砂でしょ?という意見だったので、そういう表現にしますが、本当に降ってきたのは塩だそうです)降り注ぎます。(The Violin Muse)
後のアフタートークで、「こんな美しいシーンを用意して下さって本当に上田先生には感謝している」と言っていたシーンです。
私の目には、砂漠から来たと言われたヨカナーンを伴ったサロメが砂に埋もれて、そこへ帰ってゆくように見えました。
結ばれた二人が、永遠に離れないことを現すかのように荘厳な鐘の音とともに過ぎ去りますが、私は最後の方で、サロメがヨカナーンの首を包む白い布を口に咥えて立ち上がる姿が、孤独な獣のようで、この上なく物悲しくて、好きでした。泣きましたが

最後の最期に、サロメは高く掲げたヨカナーンの首に唇を押し当てます。
そんなサロメの姿に、エロドの声が叫びます。
「サロメを殺せ!」
舞台の中央で、真っ白な首を抱き、幸せそうに眼を閉ざすサロメを兵士たちが取り囲む場面で幕が下ろされます。
カーテンコールでじは、 現実では叶わなかった、サロメとヨカナーンが二人で踊ります。(Violin Museのサビの部分少しだけ)
その時の義久さんの表情がとても幸せそうで、アフタートークで上田先生がおっしゃっていた、「あれは二人の結婚式だと思っていい。ご褒美だね」というのを思い出して、ちょっとまた胸熱になってしまったりして。
そんな風に気持ちを鷲掴みというか、魂を引っこ抜かれる作品が義久さんの、特にダンスの公演には多い気がします。
そして、全体を通して思うのは、すべてのキャストがはまり役だったってことでしょうか?
サロメの獰猛なまでの美しさ。ヨカナーンの近寄りがたい高潔さ。親衛隊長の息をするように人を殺す非常さ。首切りナーマンの人外的な肉体美の力強さ。乱れ具合と今回のセリフ量半端ない王様のエロド。男なんかには負てけてられない、負けてない!紅一点王妃エロディア。
コロスは三者三様。流されない泰ちゃん、いつもに増して断然セリフが熱い利ちゃん。サロメにメロメロで苦悶しながら篭絡される皓平くん。それから、本当に良い「少年」っぷりだった回転系ダンサー三浦くん…上げればキリがないのですw
土曜日のマチソワにあったアフタートークと、日曜日の千秋楽には楽曲提供の川井郁子さんのバイオリン生演奏もありと、プラスαの部分でも十分に楽しませていただきました。
土曜ソワレの後行われた、今回の演出・振付の上田遥先生と、ヨカナーン役の舘形さん、サロメの義久さんのアフタートーク。黒のタートルこそ着ていらっしゃいましたがヨカナーンの舘形さんと、サロメの義久さんは舞台衣裳のままで舞台上に上がって下さって。
作品の中では一言も発さない役の二人が初めてこちらに向かって話す姿に、D☆の公演を見慣れている私は「あぁ、普通の義久さんだ」と思って話を聞いていたのですが、時々話し方がやんちゃになる義久さんを窘めるように「ヨシ…?」って、話しかける舘形さんが萌すぎて
西島さんにしろ、舘形さんにしろ、ぽわんとした系統の先輩に可愛がられる感じの義久さんが、本当に楽しそうに話したり、踊ったりしている様は、見ているこちらも、本当に幸せになる瞬間でした。
ニジンスキーの時とはまた違った意味で、観ているこっちも色々奪われる作品でした。
DVDの発売が待たれますが、なにより再演をと、義久さんの気力のあるうちに是非って思って止まない作品です。
9/6・7 北千住 シアター1010