このころのリハビリは
リハビリ病院に転院して、予想していた以上に救急病院でのリハビリに比べて厳しくも充実した時間を送っていました。
理学・・・立ち座りの練習をメインに、バランスを取る練習
作業・・・作業のほうも立ち座りの練習をしていました。ただこちらはトイレ自立のための立つ練習だったので、腰にゴムを巻きつけそれを下着と想定し右手で上げ下ろしの練習をしていました。
リハビリ病院に転院し、まだ10日ほどしか経っていませんでしたが、自分の中では完全なお荷物状態だった左手足にも慣れてきて、気持ちも前向きになってきていました。
この日のリハビリは
びっくりするくらいグッと左足で地面を押せた感じがしてものすごく気持ちが良かった・・・早く明日のリハビリの時間が来ないかしらと一人でワクワクしていました。
何で左側が動くと思ってしまったのか???
そんな気持ちよい状態でベットに腰掛けていました。私の左側にはかばんが置いてありました。
そのかばんがシュルシュルっと滑り落ちていく気配を感じました。ぱっとあわてて見るとスローモーションのようにかばんが落ちていくのが目に入りました。今考えれば完全に床に落ちたものを右手で拾えばよかったわけです。
ただ変な感覚があり、動かないはずの左側が一瞬反応したのです・・・左手が反応したわけでなく、「大丈夫!いける」という変な勘違いの反応でしょうね。
自分の中ではかばんをサッと左手ですくい取るイメージでした・・・実際は、当然のことながら左はピクリとも動いていないのに体全体は勢いがついた状態で自分が落下していくのを感じました。、しかもかばんはそのときはすでに床に落ちていました。そんな光景が目に入った瞬間!「ヤバイ!このままじゃ左手が下敷きになる!」と思い、不思議にも右手が反応していました。
右手が床に着いた瞬間右手で床をグイっと押し体の体制を変え、まずお尻で着地しようととっさに思いました。
その思惑通り見事にお尻で着地!ただ思っていた以上に勢いがついていてそのまま隣のおばあちゃんのベット下まで転がっていきました。
頂上から奈落の底に転落した気分
部屋にいた二人のおばあちゃんは、私が転落した瞬間を目撃していませんでしたが、すごい音と私が転がっている姿を見てパニックになり、気が狂ったようにナースコールを二人で押していたようです。
そしてたくさんのナースさんが走ってきてみんなで「どうしたの?何があったの?」と質問攻めでした。
このときの私はまだ冷静でおきたことを説明していました。
ただ、さっきまでのワクワクした気分から一転・・・強い不安感が私を襲っていました。
少したってから連絡を受けたDr.がやってきました。ナースさんと同じ質問をしてきてプラス「どこか痛いところはないか?」と聞いてきましたが、お尻での着地に成功したせいか本当に痛いところはなく・・・Dr.は「明日になったらどこか痛むかもしれないから。また明日の朝に来ます。ただ途中で痛みを感じたらすぐに言ってよ」と帰っていきました。
またやってきた長い夜
消灯の時間になりまた一人だけの時間がやってきました。
なんでこんなことに・・・
いくらリハビリで気持ちよく立てたって、今の私は何もできないんだ・・・
本当に私は歩けるようになるんだろうか・・・
いや、家に帰って生活ができるの?
そんなことが私の頭の中でグルグルとめぐっていました。
もういやだ・・・帰りたい・・・もう頑張れない
泣きながらそんなことを考えていました。
たまたまつけたテレビにうつっていた番組は
視聴者投稿番組だった「お客様は王様かよ!」でした。
泣きながらこの番組を見ていると・・・以前私が投稿した話がちょうど流れていました。
番組が放送されていたのは7月末。
私がホームページから投稿したのは2月でした。
あ~半年前に投稿したんだな。半年前は私も元気だったし、仕事もしていた・・・クロちゃんも元気だった・・・
半年前に戻れたらいいのに・・・
そんな無理なことを考えながら泣いて泣いて・・・
妹と夫にメール
ただメール内容は異なるものでした。
妹には「さっきやっていた『お客様は王様かよ!』っていう番組見てた?その中の○○っていうのは私が投稿したやつなんだよ」と、妹には心配かけたくなかったので、自分のどん底な気持ちを隠して楽しい内容のメールをあえて送ったのです。
夫には内緒にしていてもどうせばれちゃうと思い今日起きたことを正直にメールしました。ただ今の不安な気持ちは書きませんでした。
二人からはすぐにメールが返ってきました。
妹からは「あの○○はお姉ちゃんの投稿だったんだ。仕事だけどさ在宅で文章を書いたりとかそういうことできないかな~」と妹なりにいろいろ考えてくれて提案してくれたことに、ありがたかったけど、リハビリも満足に結果がでていないのに将来のことなんて考えられない・・・と前向きな考えができなくなっていました。
夫からは「リハビリ病院に移ってからまだたいして経っていないんだよ。そんなにすぐ結果なんてでないよ・・・まさかまた泣いている?」と。
結局一晩中泣いていた
同室の人に迷惑がかかるので声を押し殺してでしたが、泣いているうちに朝がきていました。
泣いていたけど、何で私はこの病院にいるのかをもう一度考えていました。
救急病院で「絶対に歩けるようになる!」と誓いをたてたんだ、ここで気持ちが折れてどうするんだ。もっと強くなろう。今のこの状況を乗り越えないと前に進めないということには気がついていました。夫がリハビリ病院に転院した日に言った言葉を思い出していました。
「君がこの病院でやるリハビリは、手足が動くようにするってことだけじゃない。強い心を持てるようにするということも重要なことだぞ」
強い心・・・今の私に一番足りないことだな・・・でもこの時の私には一番難しいことでした。やっぱりまだ今の私の置かれている状態を把握しているようで、大切なところは目をそらしていたのかもしれません。
本当に歩きたいのか?家に帰りたいのか?
このままじゃ歩けるようにもなれないし、何より夫と一緒に暮らせないじゃん
私は健康なときから、「できないと悩むよりとりあえず正面からぶつかってやってみよう!」という考えでいました。ただ健康なときってそこまで真剣にやらなくてもそれなりにできちゃったんですよね。でも今は違う。できないならもっと頑張って挑戦しよう。時間がかかってもいいじゃない。
泣いて泣いて泣いたあとででた結論です。
外を見たらあんなに暗かった景色が、パア~っと朝日が差し込んで違う景色に見えました。
今日から頑張るしかないでしょ。絶対に歩けるようになるんだから。
一番辛かったけど、私にとって覚悟を決めた日でもありました。