未開の原野が広がる明治時代の北海道を舞台にした吉村昭氏の小説です。

東京等に収容しきれない大量の受刑者を北海道に押送し、無償の労働力として開拓させるという、実際に施行された明治時代の国策によって起こる阿鼻叫喚が描かれています。

当時はまだ刑務所の数も少なく、樹立して間もない新政府に対しての政治犯などが続々と投獄されていました。
この憎い奴らをどうするか?となった際に白羽の矢が立ったのが、手付かずの自然がそのまま残る北の大地だったのです。

見せしめ、労働力、刑罰の一石三鳥として囚人達はどこに連れて行かれるのかも知らぬまま出立する場面から話は始まるのですが、これは彼等にとって地獄への長い旅になりました。  

囚人達は主として田畑の開墾、道路の建設、鉱山採掘といった重労働を課せられるのですが、作業の過酷さ苛烈さは言うに及ばす、真冬の北海道でも彼等には足袋さえ支給されません。

これは刑罰の類ではなく、北海道の寒さを把握していない政府が再三にわたる現地からの要請に許可の判断を下さなかった為でした。
冬は看守の寝室さえ氷点下になる有様で、輸送路も雪で閉ざされ食糧が底をつきかけます。
囚人達に支給されたのは、彼らが逃走脱獄した折に判然と目につきやすい朱色の獄衣だけでした。
作品のタイトル「赤い人」はここから由来しています。

凄惨な描写が様々に有りますが、北海道の成り立ちを知る上で避けては通れぬ過去でしょう。
囚人達から憎悪の標的にされる看守達も命の危険に晒されています。

明治とはいえ、まだ人の命の重さが紙のように軽かった時代。

歴史とは、名を残すことなく死んでいく人間が無数に積み重なることによって構築されていると痛感できます。

囚人達が建設した北海道開拓の拠点ともいうべき樺戸集治監。
約40年近くに渡って全国の重罪人を集中的に収容したこの監獄で、1046人の囚人が命を落としました。

北海道発展の礎は彼ら囚人と看守達にあると言っても良い部分はあるのではないでしょうか。

現在の北海道月形町の町名は、集治監の初代典獄、月形潔から名付けられています。

町には、この監獄の一部を利用した記念館もあるようです。


歴史を知るということは、先人達の苦労とその人生を知るという事を改めて認識させてくれる一冊でした。

ちなみに、新選組の永倉新八も看守の撃剣師範として監獄に赴任してきます。
ですが彼の登場はその際の紹介文だけでした笑