僕は買ったばかりの「N501i」をつかって、メールを飛ばした。
「黒いスカートをはいている方がクサナギさんですか?」
「はい、そうです」
クサナギさんは、黒い合革のジャケットに黒いくるぶしまである長いスカートをはいていた。
口には真っ赤なルージュを塗り込んでいる。
左手に長い鎌を持たせれば、そっくりそのまま「死神」である。
僕はN501iで友人にメールをした。
「たいへんだ。死神がきた」
★
僕はもちろん死神とホテルにいった。
休憩2時間3500円。
学生にはちょうどいい価格だ。
死神とは「スタービーチ」という出会い系サイトで知り合った。
誰でもよかったのだ。
母親が煮物に使う予定だったコンニャクを部屋に持っていき自分を慰めていたのだ。
若いとは、そういうことだ。
つまり、若さとはコンニャクなのだ。
そんな人間にとって、たとえそれが死神のような女性だったとして、欲求にあらがえるだろうか?
いや、あらがえない。
コンニャクよりは生身の女性(死神)がよい。
★
死神は2時間3500円のホテルのシャワーから出てきた。
僕は、その儀式的なバスタオルを剥がす。
背中に「龍」がいた。
そう、入れ墨である。
もし、このブログをご覧になっている特殊なアナタ、少し想像していただきたい。
それはどのような龍の入れ墨だろうか?
それは、違う。
アナタが想像したのは、おそらく背中一面を覆う「シェンロン」だ。
たしかに、それはシェンロンだった。
しかし、それは小さかった。
だいたい背中の四分の一くらいのサイズだ。
しかも、尻尾に色が入っていなかった。
僕は声を出してしまった。
(ちっさ…)
「え?」
「い、いや、なんでもない」
そう言って、僕は死神を愛撫しはじめた。
そろそろという頃、行き場を失った「僕」を死神に入れようとした。
死神が叫んだ。
「イテーーーーーーっ!」
そこは、カラカラに乾いた砂漠だった。
あわてた僕は少しだけ舐めあげてみた。
そして、リトライ。
挑戦は神への反逆だ。
「イテーーーーーーっ!」
砂漠のまんなかでジョウロで水をまいたようなもので、まったく意味はなかった。
僕はあきらめ、死神は夕方なのに寝てしまった。
死神が寝息をたてはじめたころ、僕は東急ハンズにいった。
そして「クーピー」を買った。
僕は部屋に戻り、ぐっすりと寝ている死神の龍のしっぽにクーピーで色を入れた。
机の上に、ぴったり1750円を置いて帰った。