「ありささん、ひとつお願いがある。」



「何?」



「今夜寝る時、俺のことを思い出して欲しい。今まで俺と一緒にいた時のことをね。で、その報告をして。宿題だからね。」



「分かった。」



乾さんのご実家に戻ると


お姉さんがニコニコしていた。


もしかしてこの姉弟が仕組んだことなの?



すっかり友達になった子供達は別れを惜しんでいた。


今度はうちに遊びに来てねと約束していた。


ご両親も一緒に駅まで見送ってくれた。




さて


子供達が寝静まったので


宿題とやらをしてみましょうか。



私と乾さんとの出会い。


とても優秀な人なので


ヘッドハンティングでうちの会社にやって来た人。


一見チャラそうだけど根は真面目だ。


そうそう


ずっと距離があってお互い敬語で話してたっけ。


元主人とあみさんの件で急接近した。


なんでも敏感に感じ取り、私のことを守ってくれた。


耳元で囁く般若心経や寿限無なんかは今思い出しても笑える。


でも、楽しんでたのは私達だけだったよね。


笑いのツボが同じなんだ。


隣にいるのが当たり前だった人。


あ、そっか。


野田さんのことでイライラしてたのは、もしかして私のヤキモチ???


なんか今


ストンと腑に落ちた。


野田さんに乾さんを渡したくない。


心からそう思う。




それにしても


ずっと私のことを見てくれてたのね。


私が他の男性と付き合ってるのをどんな気持ちで見ていたのだろう。



ごめんね。


考えたら眠れない。


でも


乾さんも寝てないだろうな。


そんな気がする。