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無題

独り言

 
その猫は、この世の淵を歩いていた。
 
 
煤黒い眼は、光さえ吸い込むブラックホールのようだ。
音も無く忍び歩き、顔は真っ直ぐに正面を向いている。
口は小さく結ばれて解けない。
 
野良猫はたったいっぴき、
孤独だったが、それでも体の先まで艶やかな毛並みをしていた。
 
 
地面に滴る誰かの血を、舐めるように歩いている。
真っ直ぐ前を 向いている。
足を踏み外せば、あっという間に骸の仲間入りができることも、
歩いても立ち止まっても、何も変わらないことも、
猫は知っていた。
猫は真っ直ぐ前を向いて歩いていた。
 
猫は寒さに弱かった。
この世の淵は寒かった。
どこからか吹く風が、猫の機嫌を奪っていく。
歩く度に体が凍え、呼吸の度に 立ち止まりそうになる。
腹が減っていた。とても減っていた。
この先に太陽もない、美味い魚もいない。
猫は知っていた。
今更孤独に泣くことは無かったが、
猫は寒いのも痛いのも嫌いだった。
 
どこもかしこも真っ黒な体のせいで、
やけに白目が浮き出て見えた。
奈落の底から見上げれば、欠けた月によく似ているのだ。
不気味で不吉な猫は、ここに ただ、いっぴきだ。
尾は二つに裂けてはいなくとも、
忌み嫌われる理由を、猫は知っていた。
 
 
 
猫は迷わない。
この世の淵は 先の見えない一本道だ。
 
その正体は、ある一点から一点へ流れる時間であった。
 
この先には何もないと、猫は知っていた。
 
 
何もないことを確かめるように、猫はしっとりと歩いている。
 
 
 
 
 
 

 

 

知らん間に 死んでいた。

誰かに聞かせたら 笑っちまうくらい あっけない。

 

俺はようやっと重かった体を脱いで さながら脱皮したての虫のように元気だった。

 

 

さあどちらに向かえばええんかなと、きょろきょろ見渡してみれば、

ここは俺の葬式の真っ最中やった。

いつ好きな花なんて言い残してやったっけな、

俺の無愛想な遺影の周りには 名前も分からねえ青い花が わんさか飾られている。

 

線香のええ匂いがする。

田舎のばあちゃん家は 線香と畳と、籾殻を燃やす、香ばしい匂いがしたっけな。

 

坊さんが 俺のしんどい顔に向かってブツブツ唱えてる。誰も聞いちゃあいない。俺でさえ。

安らかにお眠りになっているのは俺じゃなくて観客たちの方らしい。

ほら、後ろのほう、おまえ、中坊のとき貸した漫画パクったまんまやろ。寝やがって。帰れこのやろう。

右端に座った たえちゃんは笑い堪えとんの見えとるし。

まあ、分かる分かる。笑っちゃいけん雰囲気ほど無性に笑えてくるよな。

俺も親父の葬式は理由も無く笑えてきて、母ちゃんにゲンコツもらった。

親父は、こんなふうに、俺を見ていたのだろうか、

呆れていたに、違いねえ。

 

 

 

あー、泣くなて 母ちゃん。母ちゃんやってすぐ逝けるよ。

母ちゃんはずっと、置いていかれてばかりで、すまねえと思ってるよ。

たんまりの二十世紀梨と日本酒持って、高級馬車引いて迎え寄越せやって仏さんに言うとくから。

母ちゃんなら快速の特等席乗れるで。

 

案外、悪くないもんやと思う。こうして自分の遺体に胡坐かくのも。

おんぼろの体ぶら下げて、薬と管に囲まれた白い病室よりは よっぽどな。

 

 

ご焼香ありがとうな、8割くらいは前の奴の真似っ子やろけど。

うまくできてるで たぶん。

ご焼香ってのは、清やかな心で故人をお参りするためにやるもんなんやて。

こんな退屈な葬式に、しぶしぶ集まってくれてありがとな。

 

 

ふよふよ外に出てみれば、白いベンツが嫌みったらしく停まっていた。

一体誰のや。

連中、俺の入院中は一回も電話よこさんかったくせして、調子のええこと。

 

 

 

 

死 っていうんは、ビールの泡みたいなもんだと思っていた。

けどいざ死んでみれば、二日酔いの後の シジミ汁だ。

 

俺が死んだどころで、世界が色褪せるはずもなく、時間が止まることはなく、

誰かが俺とのくだらない毎日を 数秒だけ思い起こして、

ごくんごくんと飲み込んで、馬鹿だったなあと笑いあい、夜は更けて朝がくる。

 

 

俺の中だけ 白黒のスタッフロールが だらだら流れていて、

観客は早々に欠伸をして 席を立つ。

 

 

 

 

 

俺は俺が燃やされ骨になるのを、傍でずっと立って、見ていた。

 

 

 

 

 

 

花柄のワンピースの似合う女の子になりたかった

 

 

 

 

 

カツ、カツ、カツ 

変な匂いのするリップをクチに塗りつけて

街を歩いていく

頭の中に さっき確認したグーグルマップを広げて

大きなバッグに ありったけの 

化粧品を詰めて

 

耳には樹脂イヤリングとイヤホンコード

2011年邦楽ロック

剥がれかけのペディキュア

欠けた靴底

 

今は誰も見ていないブログを 今もずっと更新している

私だけが それを知っている

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マスクは必需品

公衆トイレの鏡の前 歯磨きをする カラコンを付ける 

微笑んでみる

 

微笑んでみる

可愛くない、

けど平気

もっと不細工が 

きっといるはず

街を歩けば

これだけ人間 多いんだもの

この

街を歩いて

何に当たろう

 

 

 

ミルクティーだけ飲んで、タピオカだけが残った

 

 

 

 

 

 

 

占い師でも神様でも

魔法使いでも あるまいし、

明日のことなんて 分からないけど

昨日のことなら 大丈夫

 

 

 

全部綺麗に加工して 

ちゃんと保存しているから

バックアップも ばっちりだから