『ミイラの栄光は未来永劫~キノウミタユメ~』
第ニ章 それは一流ホテル

それは分かりやすいホテルだった。入り口からフロントまで真っすぐに伸びた真紅のじゅうたん。少し地震がでもあれば落ちてしまうんじゃないかと思う程大きなシャンデリア。
『一流ホテルとはこういうものか』と僕は思った。こころなしか匂いまで一流の匂いが漂っている気さえした。
綺麗な紫のドレスを着た美女によるピアノでの生演奏を聞きながら、受付でチェックインの手続きを僕はしようとした。
「いらっしゃいませ」と僕に言う大きなおじさんは、その一言ですでに気品があふれていた。
着慣れた黒いスーツに、慣れた手つきで僕を部屋に案内してくれたのもそのおじさんだ。

ホテルの最上階までエレベーターで上がり、大きなおじさんにの後ろをキャリーバッグをゴロゴロ鳴らしながら僕はついて行った。
「こちらの部屋の奥の扉をあけたところが、お客様のお部屋になります。」
そう言って、大きなおじさんは去っていった。

確かに’こちらの部屋’の奥に扉が見える。
だが問題は'こちらの部屋'にまるで想像していなかった景色が広がっていた事だ。

'こちらの部屋'の真ん中にはイスが10個くらい並んでいて、そこには男、女、老人、子供、色んな人が座っていた。
そして白衣を着た男性が3番目に座っている老人の胸に聴診器をあてていた。
何か老人に喋ったあと、その後ろに座っている子供に聴診器をあてた。

『え?病室の奥にVIPルームあるの??』

このホテルに着く前にスタッフが僕に言った事を思い出した。
『このホテルは超一流ホテルなんだけど、昔どっかの王様が泊まりにきた時に殺人事件にまきこまれてお亡くなりになったらしいよ。しかも死体は見つかってないんだって…』

病室に並んで座っている人達をみてこの話しを思いだすのもどうかと思ったが、何ともいえない陰気な空気は確かに漂っていた。
僕は横目に患者さん達を見ながら、できるだけキャリーバッグを鳴らさないように奥の扉へと歩いていった…。