ずいぶん昔の話になる。

高槻市に幽霊工場と

呼ばれている工場が

あった。誰が名付けた

のかはわからない。

私が住んでいた地域で、

幽霊工場はよく知られて

いた。

 

幽霊工場には鍵がかかって

いないらしく、誰もが

工場内に入れるという。

工場には人がいない。

取り壊しを待っている

ような工場だった。

 

ただ、不思議なことが

起きた。夜に幽霊工場に

灯りが点いているのを

見た先輩がいた。幽霊

工場から人の叫び声を

聞いた同級生がいた。

この工場は普通ではない。

 

私が小学生の頃、私の

近所に住んでいた男子が

約10人ほど集まって、

幽霊工場に行ってみる

ことになった。小学生と

中学生の集団で、私は

同い年のS君とペアに

なって、他の人達と

幽霊工場に向かった。

 

時間は夕方5時頃だった。

中学生の先輩が幽霊工場

の入口のドアを開けると、

確かに鍵がかかっておらず

ドアがすぐに開いた。

 

夕方で辺りは薄暗くなって

いて、幽霊工場の中に

電気はなくて、工場内も

薄暗くなっていた。「夜に

幽霊工場に灯りが点いて

いるのを見た」と言って

いた先輩も同行していたが、

工場内に電気がないことを

不思議がっていた。

 

薄暗い工場内に、何かが

落ちているのが見えた。

私とS君が見てみると、

落ちていたのは確かに

テープレコーダーだった。

 

同行した先輩や後輩に私が

テープレコーダーのことを

教えると、先輩がその

レコーダーの電源を入れた。

 

レコーダーの電源が入って

中に入っているテープが

再生された。英語の教材の

テープが入っていたようで、

レコーダーから人が英語で

話す声が聞こえた。

 

この工場に、英語の教材の

テープやレコーダーが

落ちているのが意外だった。

レコーダーの電源が入るのも

怖かった。最近この工場に

入った人がいるのだろうか?

 

問題はその後だった。

英語の教材のテープの

中身が絡まったのか、

途中で英語で話す声が

止まって、レコーダーから

「キュルキュルキュル!!」

という大きな音がし始めた。

 

その時に、私達と一緒に

来ていた後輩が「誰かが

窓際からこっちを見てる!」

と大きな声で言った。

 

次の瞬間に、私達の集団の

中学生の先輩達が怯えて、

走って幽霊工場から先に

出て行った。先輩達が

走って出て行ったので、

怖くなって、私達や後輩も

急いで工場を後にした。

 

幽霊工場を出てすぐ、

私達の集団はみんなが

揃っているかを確認した。

 

私と一緒にいたS君だけが

その場にいなかった。

S君はまだ工場の中にいる

ようだった。

 

先輩が「幽霊工場に長く

いたら呪われる」と言った。

 

凄く怖かったが、私と

先輩のNさんが再び

幽霊工場の中に入ると、

工場内で震えているS君が

横たわっていた。S君は

怖さのあまり、足が

すくんでいた。私とNさんが

S君を工場の外に運んだ。

S君はまだ恐怖で震えていた。

 

今きちんと年数を計算したが、

幽霊工場に行ってから約3年後に

S君は交通事故で亡くなった。

学校の私の学年の生徒達は、

S君のお通夜に行って

大泣きした。お墓参りにも

伺った。

 

先輩が「幽霊工場に長く

いたら呪われる」と言って

いたことを、今でも思い出す。

不謹慎なので幽霊工場の件を

考えたくはなかったが、

幽霊工場のことを事故と

結び付けて話す人はいた。

 

あれから長い年月が過ぎたが

今でも同窓会をすると、幽霊

工場やS君の話が必ず出る。

 

高槻市の西面と茨木市の目垣の

間ぐらいにあった幽霊工場は、

その後は取り壊されていた。