幼少期の頃、TVのCMに出て来る

マクドナルドのドナルドのことが

怖かった。よく笑っているドナルド

だが、白塗りの顔と黒い目がやけに

怖かった。

 

小学生の頃、競馬で大負けした

父が、私を京都の映画館に連れて

行ってくれた。その時に観た映画が

『バットマン』(1989)だった。

 

パンフレットを購入。主人公の

マイケル・キートンが演じる

バットマンよりも、ヴィランの

ジャック・ニコルソンが演じる

ジョーカーの方が、扱いが大き

かった。

 

バットマンの映画は凄く良くて、

自分の体が興奮で熱くなっていた。

ジャック・ニコルソンの演技が

素晴らしい。後に『恋愛小説家』

や『カッコーの巣の上で』も観て、

私は彼のファンになった。

 

私の家は貧しかったから、財力で

バットモービルなどいろんなメカを

駆使して戦うバットマンよりも、

それほどお金をかけずに発想や

知力で立ち向かうジョーカーの

方が勇ましく思えた。

 

バットマンを観た夜、私は高熱を

出した。何日か後に、学校の

保健室の先生から「知恵熱」と

いう症名を伝え聞いた。ドナルド

だけでなくジョーカーも、やはり

白塗りの顔をしていた。自分は

どこかで、ジョーカーのことも

恐れていたのかも知れない。

 

ピエロ・コンプレックスを抱える

ようになった自分は、それを

乗り越えるべく、手始めに

小学校の図書室に向かった。

本に詳しいY君に、ピエロが

出て来る本を教えてもらって、

私は江戸川乱歩の少年探偵の

シリーズの表紙を見て、ピエロ

または道化師の絵がある巻を

どんどん借りて読んでいった。

ピエロに慣れたかったからである。

(だいたい最後には怪人二十面相

が登場していた。)

 

しばらくして、友達の家で

『イット』(1991)という映画を

観た。また白塗りのピエロが

出て来たが、自分が成長していた

せいか、それほど怖いとは思えず、

もう熱が出ることはなかった。

 

それでも、バットマンの

ジョーカーについては、私が

大人になってからも、新しい

映画で新しい俳優が演じる度に

映画館まで足を運んでその

怪演を観るようにしている。

 

ヒース・レジャーのジョーカーも

良かった。ホアキン・フェニックス

のジョーカーは、ジョーカーが

誕生するまでのプロセスがあまりに

切なくて、今でも印象に残って

いる。

 

少し前に残念に思ったのは、日本で

ジョーカーの格好をして京王線で

事件を起こした男がいたことだった。

あの男は決してジョーカーではない。

実際にあんなことをやって良いわけが

ない。

 

今でも時々、私はニコルソンが演じる

ジョーカーを観ることがある。彼の

演技はやはり素晴らしい。

 

『スパイダーマン』のグリーン・

ゴブリンは、おじさんがリストラ

されて、次のシーンでもう怪物に

変身していた。あれでは現実味に

欠ける。

 

ニコルソンが演じるジョーカーは、

クールなネイピアが酸の中に落ちて

顔を損傷してしまい、自らメイクを

施してジョーカーになるので、プロセス

がわかりやすかった。

 

今後もピエロやジョーカーに注目

していきたい。また高熱が出たり

しないだろうか?