食事後、三人で卓球やグランドゴルフで盛り上がったのち、アスレチック広場で一通り楽しむなどした。そして、今、ちょっと小高くなっているアスレチック広場の中で、一際高い、木造のお城みたいな基地みたいなアレの一番上で、腕組みをし、仁王立ちしていた。
 眼下には鬱蒼とした森が広がり、その先には道路が見える。振り返ると、そこには決戦場である立派なコロッセオと、周辺施設がちゃくちゃくと建設されていた。ジェットコースターやメリーゴーラウンドなども造られており、ちょっとした遊園地のていをなしていた。
 誰にも気づかれないように、
 「えらいことになったなぁー」と、仁王立ちのまま呟いた。

 「バッシー、明日どうすんのー?勝算あんのー?」
 
 心配そうにエリが声をかけてきた。
 「・・・・うん・・・まぁ・・・ね。」
 オレはあくまで堂々と応えた。
 「あーし思うにさ、どのバージョンのたかしで来るかが問題なんだよねぇー」
 「バージョン?・・・うん・・・それは大事だね・・・」
 「エリはねぇー、すごいんだよぉー。あのねぇ、たかしオタクなんだよぉー」
 なぜかマナミが誇らしげに言った。
 「ちょっと、オタクはなしっしょ!マジで!!」
 「すごいんだよぉー。漫画全巻とぉー、アニメ全部撮ったビデオ大事に持ってるんだよねぇ。VHSだよぉ!」
 「・・・・うん・・・VHSねぇ・・・うん。VHS・・・」
 「違うし!最近DVDに焼きなおしたし!永久保存版だし!あと他にも映画版のビデオとかポスターとか、フィギュアとか持ってるだけだし・・・」
 「すごいよねぇ。エリすごいよぉ!一歩間違えたらキモいオタクだよぉ!!最高にクールだよぉ!!」
 「きもくねぇし!!ってかバッシー、あーし思うんだけどね、世界大会編までの、いわゆる第一部の時のたかしだとしたらさぁ・・・」
 エリの話を聞きながら思い出した。『バーニング・フレイム・ファイヤー・たかし』は、オレの中で長期連載だったので、その時々の好きだったり夢中にってたりしたモノの影響をモロに受けている。
 最初の頃は、『キン肉マン』という漫画に夢中だったので、たかしは基本的に関節技や投げ技や、それらの複合技など、超人プロレス的なファイトスタイルをとっていた。
 「バトルクラッシャーで、股関節と肩甲骨と肋骨がバキバキにされるけど、そこを我慢したらワンチャンスあるんじゃねぇ?」
 「えぇ?でもぉ、そんなにバキバキにされるとバッシー死んじゃうんじゃないのぉ?」
 「マジで!?死ぬのバッシー?」
 「まぁ・・・そんなにバキバキにされたら・・・ねぇ・・・」
 「チョーありえない!なんで死ぬんだよ・・・・じゃぁさ、天王星編から、地球に帰ってきてからのブルー・カンパニー編の第二部だとぉ・・」
 第二部の頃は、『ドラゴンボール』にハマッていたので、その頃のたかしは空中を舞い、エネルギー波を放っていた。
 「エネルギー波でわき腹えぐられるけど、それを堪えて・・・」
 「バッシー、波ぁでえぐられたら、死んじゃうよぉー?」
 「マジで?なんで死ぬの?」
 「・・・・まぁ・・・波ぁでえぐられたら・・・ねぇ・・・」
 「ちょっとやる気あんの?じゃぁ、魔人ロードから裏世界に行った第三部のたかしだと・・・」
 第三部の頃になると、ファミコンの『ドラゴンクエスト』やら『ファイナルファンタジー』などの、ロールプレイングゲームに明け暮れていた。この頃になるとたかしは、剣や魔法で戦うようになる。
 「究極魔法『ウルトラ・バーン』でバーンってなって、跡形も無く消え去るけど、そこから何とかして大逆転とか出来るわけねーし!跡形もなくなってんじゃんか!!!」
 「死ぬねぇー」
 「・・・・まぁ・・・死ぬね・・・」
 「あ!でもちょい待って!たしか、大王ウルゴリラにはウルトラバーン効かなかったんだよね。ん?あれ?それからたかしどうしたんだっけ?んん?ねぇマナミ、たかしは最後どうやってウルゴリラ倒したんだっけ?」
 「知らんよぉー」
 「・・・・ウルゴリラ・・・ウルゴリラねぇ・・・」
 「まぁ、だからね、あーし思うんだけどバッシー、ウルゴリラになればいいんじゃね?」
 「・・・・まぁ・・・・なるほどね・・・」
 「エリぃ・・・バッシーはぁ・・・ウルゴリラには、なれないよぉ?」
 「・・・・まぁ・・・・・・なれないね・・・・・」

 そこで3人困ってしまって、うーんってなった。

 たかしの強さなど、生みの親であるオレ自身よく知っている。超人プロレス的な技をかけてきて、波ぁを放ち、魔法でバーンってしてくるのだ。こんな戦い、始めっから無理があるのだ。
 「マジでどうすんの?無理じゃね?」
 あきれたようにエリが呟いた。
 「・・・・まぁ・・・うん・・・・大丈夫だよ・・・・うん・・・」
 「どうすんの?十中八九死ぬじゃん!」
 「・・・うん・・・いろいろ・・・・ね・・・・考えているから・・・」

 しどろもどろに応えながらオレは一つの覚悟を決めた。
 大勢が、オレのために動いている。エリでさえ、今こうして親身になって考えてくれている。
 だからこそ、オレは、今、はっきりと、断固とした覚悟を持って、
 ここから逃げることに決めたのだ!!!