許さないと言われても全く思い当たる節がない。それなのに憎悪の目でにらまれて正直泣きそうである。心なしかエリもめっちゃ睨んでるし。
 「ちょっと、アンタあーしのたかしに何したのマジで。信じらんない。ちょー最低なんですけど」
 いやいや、だからオレが何をしたのか知りたいのはこっちなのであって、あと、いくらなんでも無関係のエリにそんなこと言われる筋合いはない。いや、エリにだけではなく、この横顔のない男達にだって、こんな敵意を向けられる謂れはないのだ。
 オレはなんら恥じることはしていない。堂々としていればいいのだ。きっと彼らも何か勘違いをしているに違いない。堂々と、おくさずに、腹をわって話し合えば、きっと分かり合えるはずだ。だからオレは、あえて一歩歩みよった。
 「うへへへ・・・すいません・・・あのですね、その・・・あっし実は石橋なんて奴じゃなくて、あの・・・うへへへへ・・・田中・・・そう田中っていいやしてその・・・・」
 
 すると次の瞬間、ヤクザのケンが一瞬視界から消えた。

 冷たい風が走った。

 オレは斬られて死ぬんだ。それが分かった。

 居合いの達人であるケンが、目にも止まらぬ速さで間合いをつめ、刀を抜き、オレの首を斬りおとそうとしているのだ。

 こんなことなら、ジャパニーズ・ヤクザのケンなんか描くんじゃなかった。オッパイ・パブのメグミとかにすればよかった。

 でも今更もう遅い。

 オレはぎゅっと目を閉じた。

 ケンくらいの刀の達人となると斬られた方は痛みも何も感じず、それどころか斬られたことすら分からない。
 だから、今、オレはもう既に斬られたのだろう。斬られて、死んでいるのだろう。目の前が真っ暗で何も見えないのがその証拠だ。
 「ばっしー何してんのぉ?寝てるのぉ?」
 空気を一切読まずにマナミがこんなことを言ってきた。
 「死んでんの!見れば分かるでしょ!!」
 「何で死んだのぉ?」
 「首を斬りおとされたから。ほら、首、ないでしょ・・・」
 言いながら首のあたりを手で触って驚愕した。首が、ついている。首の上には、顔もちゃんと付いてる。ん?どういうこと?オレはおそるおそる目を開いた。

 「これは何のつもりでござるか!フランデス殿!!!」
 ケンの刀を、フランデスが赤いバラで止めていた。(正確に言うならば、斜めに切られたバラの切り口部分で止めていた。)
 
 「そうだぜ!何を考えているんだ・・・ぜ!」
 たかし・ブー・あとその他の足元に、赤いバラが刺さっていた。これは影縫いという忍術で、これをされると動けなくなってしまうのだ。なぜフランス生まれの彼がこの忍術を使えるのかは、話せば長くなるが、端的にいうとカッコいいからだ。

 「・・・・・まて・・・・・と・・・・・・言ってい・・・・・る・・・・」

 「ブー!!やっぱりこいつ裏切りやがったブー!!!もともと俺はこいつ信用してなかったブー!!」
 レスラー・ブーがそう言うと、続いてトミ・ケンタ・ヤスオの三人もなんかかんか言い出した。

 「・・・・・いいか・・・ら・・・・・黙っ・・・・て・・・・ろ・・・」

 静かにフランデスが凄むと、空気が凍えたようになり、だれもそれからは何も言えなくなった。さすがフランス仕込の『凄み』なだけある。

 「・・・・・君た・・・ちは・・・・本当に・・・・これで・・・・いい・・・・の・・・か?」

 「・・・・・確か・・・・に・・・・この・・・・男・・・・石橋英・・・・・明・・・・・を・・・・許せ・・・・ない・・・・のは・・・・わか・・・・る・・・・・僕・・・・も・・・すぐに・・・切り刻んで・・・・やり・・・・たい・・・・から・・・・」

 何やら物騒なことを言われているが、なんとなく命が助かりそうなことだけは分かった。

 「・・・たかし・・・き・・・君なら・・・・ら・・・・わかる・・・・・はず・・・・だ・・・この・・・・男の・・・・罪・・・・その償い・・・・罰・・・・それは・・・・こんな所ではなす・・・・では・・・・なく・・・・ちゃんと・・・・した・・・・決戦の・・・・・舞台で・・・・白黒・・・・白・・・黒白・・・・・けちゃく・・・・決着を・・・を・・・」

 「もう分かったぜ!だからそれ以上長くしゃべるな!だぜ!」

 普段無口なのに一生懸命しゃべったせいか、もともと白い顔をさらに青白くさせ、フランデスはゼーゼー言いはじめた。

 「ケンも、刀をおさめるんだぜ!」

 たかしの言葉に、ケンは刀を鞘におさめた。だが、いまだにめっちゃキレてる感じで睨んではいた。

 「おい石橋!聞いてただろう?フランデスの言うとおりだ。この因縁は、正式なバトルでケリをつける!だから石橋!お前とは明後日、決戦のステージで決着をつけてやるぜ!この俺との、一対一の勝負だぜ!!」

 「えぇぇ!!!あ・・・いや・・・えぇぇええ!!!」
 事態についていけずオレが困っていると、

 「話は全て聞かせてもらいましたよ!!」
 と、どこからか一人のイルカ人間がシャシャリ出てきた。
 「あ、皆さん始めまして。私、『逆さ墓場の平穏を守る会』の会長の、シュナイダーと申します。」
 シュナイダーと名乗る男は、その場の一人一人に丁寧に名詞を渡していった。名詞には、『逆さ墓場の平穏を守る会会長』の他に『犬をお手から開放する会会長』『アジのひらきを閉じる会会長』『秋茄子を嫁に食わせる会会長』など等、様々な肩書きが書かれてあり、正直胡散臭い印象がした。

 「あなた方の話をまとめるとつまり、この石橋とかいう青年と、そちらのたかしさんの一騎打ちをする・・・そういうことですな」
 「そういうことなんだぜ!」
 「だとすると、これは我々守る会と、あなた方開発者との代理戦争・・・そう受け取ってもかまいませんな?」
 「何言ってるか分からないけど、多分そういうことだぜ!」
 「ブー!」
 「異論はござらん」
 「・・・・いや・・・話が・・・ちがって・・・」
 「異議なしでやんす」
 「そうでがんす」
 「なしでやんす」

 「そういうことでしたら、立派な決戦会場を作らねばなりませんな。我々も力を貸しましょう。依存はないですな!?」
 シュナイダーがそう言うと、どこにいたのか、沢山のイルカ人間達が「おぉ!」と言いながらわらわら集まってきた。
 「よし!俺らもいっちょやるぜ!!だぜ!!」
 たかしがそう言うと、これまたどこにいたのか、安全服に安全ベルトを付け、安全靴を履き、ヘルメットをかぶった作業員たちが「おぉ!」と言いながらわらわら集まってきた。

 一気にそこは熱気あふれる工事現場となり、未だ状況をよく飲み込めていないオレは、仕方ないのでエリとマナミと一緒に、邪魔にならないところへと移動した。

 それから三人で、ウノとかして遊んだ。