「あなたたちはおいしいケーキを知らない」



中一の時担任の森山先生に言われた言葉。グルメな話を始めようとしてるわけではない。でも今からするのは大事な話。当時から20年以上たった今も、というか時を経た今こそよりずっしりと心に響くエピソードである。そしてそれを思い起こさせるようなことが最近多いのでここに書いてみることにする。



その日俺たちは合唱コンクールの練習をしていた。放課後の自主連だ。俺のクラスはお世辞にも合唱がうまいとは言えなかった。そしてそれがわかっていたからいつでも投げやりな練習態度だった。へらへらとふざけ合い、担任に注意されるとより調子に乗っておちゃらけて見せる。いつの時代も中学一年生は猿のようだ。



しかし何度も練習を繰り返すうちにそれなりにはなってくる。そしてそれなりになってきた頃に級友たちの間に同じ思いが広がる。「こんなもんじゃん?」「まぁまぁやったべ」俺たちは疲れていた。もともと気の進まない事にこれだけの時間を割いたのだ。もう帰りたいよ先生。こんなもんでいいんじゃない?



その時担任は冒頭の言葉を放った。「あなたたちはおいしいケーキを知らない!」これは実に味わい深いスピーチだった。「あなたたちが食べてるケーキは本当においしいケーキ?今食べてるケーキが一番おいしいってなんで言い切れるの?あなたたちは今食べてるケーキで満足してる。でもそしたら今のケーキ以上のケーキを知ることはないのよ。」



「隣町まで行けばもっとおいしいケーキがあるかも知れない。それを知ろうともせず満足してる。でも上質なものは触れて味わってみないとわからないわよ。そして本当においしいケーキに出会った時に思うのよ。今まで食べてたケーキはなんだったんだ?ってね。先生はあなたたちにおいしいケーキを知ってほしい。」



簡単な例え話。でもわけわかってない13の俺の心にも確かに響いた。森山先生は現状に満足するな、向上心を持てと言いたかったのだ。よりよいものを知って己を知り、分をわきまえろと。そこで満足したらそこまで。でも上質なものに触れて意識を高く持っていれば可能性は無限に広がる。俺は、君は何にだってなれる。いい話だベ。



俺が今日この話をしたくなったのは理由があって、最近行く先々の地方都市でよく思うことがあるんだ。ズバリ年上の連中、さぼってねーかと。小さな町の小さなコミュニティの限られたメンツの中で誰が物事の善し悪しを若者に教えるのか。年上だろ?クラブでの礼儀、夜の街のルール、イベントの作り方、音楽の楽しみ方、酒の飲み方。年上が年下に教えるんだろ。



じゃなきゃ誰が教えんのよ。俺たちせいぜい一年に一度か二度しか君の街に行けない。尽きっきりにはなれないから普段の君たちが試されてるんだよ。これだけは言っておくけど君の町の若者の未来は君たちにかかってる。イベンター、DJ、ラッパー、ダンサー、ライター、PA、エンジニア、聞いてるか?君の町の未来は、君の手にかかってるんだよ。



君がさぼった分若い子の感性が鈍る。上質を知らない子供たちはそれが最高の状態だと思って生きていくんだ。おいしいケーキを知らない子供たちが手の届くケーキを食べているうちにケーキ自体に飽きてしまったらどうしてくれる。ケーキってこんなもんでしょ、飽きちゃった。おい、どーしてくれる!ケーキってもっとおいしいもんだぞ?



若者にはいいものを知ってほしい。だから年上はいいものを若いのに教えてやれよ。キャリアがある分試されてんだよ。いいものを知ってるんだったらなんでこの現状?みたいの多いぜ最近。しかも改善しようとする気概も感じられない。てきとーエバれて、てきとー若い衆の前でいいかっこできて、てきとー儲かって、てきとーオンナ食えて...って見えてたらまずいだろオイ。



育てるという事を知れ、年上連中。若いやつよりお前から先に親になるんだぞ。いずれお前もまっさらな人間に人生を教えてやんなきゃいけなくなんだよ。しっかりしろよ。第一育てるってことは喜びだぞ、多分。俺はいつだってこの国の若者を育てるつもりで活動してる。東京で第一線突っ走ってそれを持って全国を点検してる。もう10年だよ。



いいラップするよ、いいショーするよ。それを持ち帰って欲しいからだよ。東京に滅多に来れない子たちに東京のラップを持って帰って欲しいから全力で尖ったことするんだよ。なかなか見れないモン見て喰らって欲しいんだよ。300本の藁の1本でもいいから火を着けたい。それが何年かしたら大火事になるかもしれない。俺は君の街に希望を置いて江戸に帰る。



苦しい時代だよ。みんなそうだぜ。でも年上連中、俺たちが投げやりになっちゃ元も子もない。希望がねーよ。育てようよ。育てた子が俺たちを後から救ってくれるよ。君の町からスター出そうよ。そんでそいつに感謝されようよ。「全部あの人に教わったんです、ありがとうございます!」そんな報われる事はねーんじゃねーの。



なんせ俺たちは人間は教わって、理解したら、今度は教えるんだ。今いる場所の周りを見渡して、年下ばっかだったらそれは君の番なんだよ。振り絞れ。知ってる事を振り絞って教えてやれ。答えられない事があったら知る努力をしろ。なんせお前はお前の町の代表なんだからな。年が上なだけで義務がある。俺はそう思うよ。



散々言ったけど愛あってこそのムチよ、噛み締めてくれ。期待してるから言ってる。みんなで作り上げていくもんだから。アーティストだけじゃないから。主役はオーディエンスなんだからね。いいオーディエンスを作るためにいい環境作り、送り手の皆様お願いしまっせ。東京に牙剥くくらいの町のまとまりを君が作れ。誰かじゃないよ、君が。でわまた。