昔の話だ。俺の姉、ユミはマッチこと近藤真彦氏の大ファンだった。当時いくつかあったランキング歌番組に出るマッチはすべてユミの隣で観ていたし、マッチ主演の映画に付き合わされたこともあった。当時俺は小学校に上がって間もない頃だったと思う。俺とユミは五つ離れているのでユミは恐らく小六か中一くらいかな。上の兄弟がいる読者はわかると思うが幼少の頃の兄だとか姉ってのは絶対的な存在で、弟や妹としてはある意味両親以上に恐れ敬うものであり、後の人生に確実に影響を与える存在なのだ。





だから俺は赤いコンバースのバッシュやオートリバースのウォークマンと同じようにマッチを好いた。姉が興味を持ったものすべてを当時の俺は無条件で受け入れていたもんだ。もちろんサザンやチェッカーズなどもその延長線上に位置したし、なんせユミは俺の中で一番身近な「ナウい若者」だったのである。だがある時を境にユミはマッチを嫌いだすようになるのだ。俺は揺れた。なんせ六歳とか七歳の子供である。「好きになったものをなんらかの理由で嫌いになる」という感情自体が理解不可能だったのだろう、無理もない。





もちろん俺は姉に聞いた。「ねえお姉ちゃん、なんでマッチ嫌いなの?あんなに好きだったのになんで嫌いになったの?」昨日まで最高のアイドルだと思い込んでいたマッチを今日姉が嫌いだと言う。俺のアイデンティティは崩壊寸前だった。すると姉はこう言った。「マッチねえ、好きは好きだけど生意気なこと言ったの。ベストテン(当時の歌番組)出てたでしょ。また一位だったの。◯週連続一位だったのね。そいで司会の人がね、"いやーマッチ、凄いですね!"って言ったのね。そしたらマッチ生意気言ったの。お姉ちゃん許せない。」





俺はますますわけがわからない。好きなのに生意気?何様...とは思わなかったが、俺はもちろん女性独特のバッサリとした言い切りやファン心理など理解できる歳ではない。だが憧れの姉の心情を少しでも理解したい一心でさらに食い下がった。「なんて言ったの?ねえお姉ちゃん、マッチなんて言ったの?」姉は"あんたに言ってもわかりっこないけど"ともったいぶった前置きを目で示してからこう言った。「マッチね、"いやーまだまだマイケルジャクソンくらいの大スターになりたいですね!"って言ったの。」





まいけるじゃくそん?俺はまだ"彼"を知らない。なので聞く。「ねぇお姉ちゃん、まいけるじゃくそんってなに?」姉はさらにだるそうに「マイケルはねぇ、世界のスーパースターなの。凄いんだよ!お姉ちゃんマッチ好きだったけどマイケルに追いつこうなんて言い過ぎ。マッチ生意気。だからお姉ちゃんマッチ嫌い。」えー!マッチよりスターなの?俺の思考回路はもはやショートしてプスプスと煙を上げ初めていた。中学に上がる頃だった姉は思春期にさしかかる所で、聴く音楽を邦楽から洋楽へとゆっくりシフトチェンジをし始めていた時期だったのだ。





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...続く!