男が泣く。日本男児が泣く。よっぽどだ。女は別よ。好きなだけ泣いたらいい。それは恥ずかしいことじゃない。でも男は違うぜ。俺たち人前で泣きたくなんかない。男は涙を見せぬもの。そうやって育てられてきたんだ。



それでも込み上げてくる何かを抑えきれない時がある。そういう場面は人生にそう何十回もあることじゃない。正に激情。そんな時、男はギリギリまで耐える。そしていつしか貯水量を超えた涙を、諦めとともに静かに頬に逃がす。チッキショ...俺泣いちまった、ってな。



どんな涙でもそうだ。トコナが死んだ時、俺はニトロメンバー全員の前で号泣しちまった。俺は泣きたくなかったぜ。当たり前だよ、ツレの前だしなおさらだ。でも抑えきれなかったな。自分でもビックリするくらい俺は涙を流して、ヒクヒク嗚咽を漏らした。恥ずかしいよ。



でもしかたねー...現実に起こったことが俺の心を揺さぶっちまったんだ。たくさんたくさん辛いことを経験してそれなりにタフになったつもりでいた。でもあいつの死は俺の涙の貯水量を軽く飛び越えちまった。俺がそれまで経験したことがないレベルの悲しさだった。



でも涙は悲しい時だけ溢れるわけじゃない。心が震えるような感動に導かれる涙もある。どちらにしろ涙というのは抗えないもの、抗えない感情の昂りそのものなんだな。悲しい涙はひとを強くする。そして歓喜の涙はひとを豊かにするだろう。涙は人生の重要なスパイス。感情あってこその人間だろ。



実はついこないだ俺久しぶりに泣いちまったんだ。いやいや、歓喜の涙よ。感動の涙。嗚呼、俺はヒップホップが好きでよかったと、Bボーイでよかったと、心から思える経験をしたんだ。舞台は日本武道館。俺はヒップホップが誇らしくて泣けてしまったよ。いいものを観させてもらった。



俺のヒーローたちがやってきたことが、俺たちがやってきたことが、俺の後輩たちがやってきたことが決して間違いじゃなかったって思えたんだ。Bボーイにしかわからない感動がバックステージに充満していた。その苦労や苦悩を知ってる者同士に電流のような連帯感が漲った。俺達はひとつになっていた。



三時間のステージ。クライマックスに向かう主役たる男は会場を覆い尽くす人の海と汗だくで対峙していた。男の背中だ。この細い身体のどこにあのエネルギーがあるのだろう?二時間を超えるステージを経験した者にしかわからない領域、その苦しみ。俺はわかるぜ。行け!行け!やり遂げろ!拳を握る。



そしてアンコール。DJ YASがふらりとブースに現れ、あの我々のトラウマである伝説のビートを炸裂させ、我々のヒーローたちが一人また一人とステージに上がって横並びになった瞬間、俺のやせ我慢は臨界点に達した。全身を鳥肌が襲い、目から熱い涙がこぼれ落ちた。俺の意識は一気に18歳に戻ってしまった。



若かった俺がヒップホップを生きることに決めた理由が今目の前で再現されている。RINOが、YOU THE ROCKが、G.K.MARYANが、TWIGYが、GAMAが、そしてZEEBRAが、ステージ狭しと飛び回って狂ったように叫んでいる。MUMMY-Dがいる。HUB I SCREAMがいる。あんたたちがいたから今俺がここにいる。



ありがとうヒーロー。俺にヒップホップをくれてありがとう。希望をくれてありがとう。これからもずっと、俺達は一緒。運命共同体だ。初心を思い出させてくれてありがとう。この武道館公演に関われて俺は最高に幸せだ。大の男が泣くには最高の舞台だった。ありがとうZEEBRA。



そして俺は感動とともに新たな十字架を背負っちまった。コレ、俺がやりたい。そう思っちまったんだ。武道館で三時間のライブ。ファミリーと仲間に囲まれて人生最高の涙を流してみたいじゃねーか。俺は男になりたい。あの日ZEEBRAは男だった。俺としたことが...すっかり魅せられちまった。脱帽だ。



だから俺もその背中に乗る。そしてさらに高く飛ぶ。誰がなんと言おうとあの日ZEEBRAは勝った。何に勝ったのか。自分に?同業者に?観客に?自分をせせら笑うヘイターに?とにかく、彼は勝者だった。そのように俺の目に映った。俺も勝ちたい。強烈に思った。羨ましく思ったんだ。嘘はつけない。



武道館公演のすべてが終わってステージを降り、ガンダム最終回ラストのアムロレイのように我々のもとに戻ってきたZEEBRAは子供のような表情ではにかんで、涙をこぼした。きれいな涙だった。ただの「ラップ小僧」がそこにいた。男が涙を見せるならよ、こんな涙にしてーもんだよな。俺もやるって兄弟。