「NITRO MICROPHONE UNDERGROUND」。全20曲。ボリューム的にはお腹いっぱいの内容にもかかわらず、この宝石のような1stアルバムはありとあらゆる音楽好きを惹き付ける奇跡的な輝きを放っていた。俺達の頬は慣れない称賛に引きつった。なんということだろう。俺達のアルバムは大絶賛されたのだ!途端に周囲が騒がしくなってきた。


俺達はそりゃ戸惑ったもんだ。長いこと背中しか見せなかったスポットライトが突然こっちを向いたんだぜ。なにやら俺達が醗酵させた「思いの記録」は物凄いモノだったらしい。そう、俺達はあくまで第三者的に「らしい」ってくらいの感じで自分達が巻き起こした目の前の現象を眺めていた。台風の目ん中ってのは静かだって言うじゃん?正にそんな心境だった。


相変わらずリリースされるまで俺達自身はまったくウケると思ってなかった。そりゃシングル曲やそれらをまとめたCD「NITRO WORKS」はウケたとは言ってもアルバムとなれば評価がシビアになるのは当たり前。アルバムリリース前に既に得ていた評価に対しては「マグレっしょ」くらいだった。出せるだけで嬉しかったし、カネのことも全く考えてなかった。みんなで「形にしてみる」をしたかっただけだった。


まるでリスナーがいないかのような自然なマイクリレーは身内言葉に彩られて八通りに輝いた。「声が被らない」とはよく言われる褒め言葉だが正にその通りで、声もフローも詩の世界観も俺達は誰一人被るものがいなかった。もちろん意識してないわけだがこれは結構奇跡的なことだ。みんながみんな「いい味」出してるって思われたわけだな。ごっつぁんです!


歌詞カードが付かないのもNITROの音源の特徴の一つだが、それもなにやらいいように働いたらしい。ミステリアスだと解釈されたのだ。そしてそれはリスナーの耳を「意味」から解き放ち、言葉の「響き」を楽しむことに集中させる手助けにもなったのだと思う。極めて洋楽を聴くときの耳に近い楽しみ方である。リスナーは俺達の言葉のフローとキャラクターを楽しんだ。


でもこの絶賛を受けたアルバムは同時に論争をも巻き起こしたんだ。あまりに突然変異的な俺達のラップにシーンの内部はザワついたもんよ。そしてしばしばこのアルバムは次世代の「踏み絵」として機能することになってゆき、ヘッズたちはアリかナシかを討論することに夢中になってたもんだ。まぁ結局...絶賛派も中傷派も完全に俺達に振り回されていたわけだよ。それはなかなか滑稽なショーだったので俺達はニヤニヤしながら楽しんだぜ。


そしてその年の暮れには音楽誌はこぞってこのアルバムをベストラップアルバムとしてノミネートした。ふと気付けば俺達は立派に「ラップグループ」として世の中に認知されていた。名無しの「ずっとつるんでるツレ」の集団が掲げた看板は今やシーンの誰もが知る登録商標となってしまった。笑っちまうべ?俺ら結成もしてないくらい無茶苦茶に自由だったのにだぜ。アリエナリ!


だがその何にも縛られない自由さや軽やかさこそがNITROそのものであり、そこにこそリスナーは魅力を感じたし、同業者は脅威を感じたのだと思う。そんな自由なアルバムの想定外の成功はもちろん俺達の自信となり、各々のソロワークへの意気込みに繋がってゆく。これより先、俺達は全員がリードを取れるグループということをソロ活動を通してシーンにアピールしていくことになるのだ。結果メンバー全員がソロアルバムを発表したわけで、そのどれもがやはり「被らない」。


かと思えばレコード会社や所属レーベルと決別すべくメンバー全員で有限会社「NITRICH」を設立。それと別にXBS、S-WORD、GORE-TEXは洋服ブランドも立ち上げた。さらにメンバー個人個人がトップの会社も乱立し、NITRICH周辺は複合企業のようになっていった。グループとしても四年に一度のペースでアルバムを作り、その間は各々が思い思いの仕事で埋めた。音楽と洋服という若者カルチャーを駆使して俺達は徹底的にシーンに自分達の名前をに忘れさせなかった。


そして昔は新興勢力として、今は目の上のタンコブとしてマイクを握り続ける俺達も来年でなんと「LIVE'99」から十年だ。んー、十年一昔とは言うが...早いもんだぞ、オイ!もう十年だと。つーか実際この「ニトバナ」は十年分以上にも登る途方もない追憶なのだ。十年同じことをやり続けることの重みを君が知っているならば俺達は拍手を、喝采を送られる資格があるはずだ。謙虚な俺でもそれくらいは思うぜ。なかなかすげーことよ。


だがしかし...まだたかが十年でもある。NITROはまだまだ止まらない。高校時代に俺達にハマってラップ始めたヘッズも会社に勤めて違う夢を追ってるかもしれない。十年てのはそういう単位だ。でも見てみろよ、俺達まだここにいるぜ。マイクを持ってステージに出ることをまだ求められてる。それに事務所内にスタジオ作って効率を上げようとするほど未だにハングリーだ。君を逃がすつもりは毛頭ない。しっかりつかまっとけ。


というわけでここに2009年を「NITRO YEAR」とすることを宣言し、一年を通しててんこ盛りの企画が君を待っていることを大々的に発表する!音源やDVD、ライブはもとよりビックリするような斬新な企画も盛りだくさん!これらは俺達からのファンへのプレゼントとして認識して欲しい。詳しくは...言いたいけどまだ言えねーのよ、さっせん!まぁこのブログ読んでりゃそのうちわかるってことで。とにかくでかい祭にするからみんなもガッチリ煽って一年楽しんでくれ!乞うご期待、震えて待て!








...こんな長くて短い十年が過ぎていった。周囲のいろいろなものは移り変わっていった。でも俺達の関係だけはあの頃のままだ。なぜなら俺達はただひたすらに「長い友人」であるのだ。ヒップホップに呼ばれて渋谷に集まったただのBボーイ。数えきれないほどの登場人物が俺達の人生に現れては消えていった。でも俺達はずっと一緒だった。悔しいことも悲しいことも分け合ってきたんだ。だからグループじゃねーのさ。ファミリーなんだよ。


そんな俺達ファミリーをずっと見守ってくれているファンのみんなにでっかい感謝を送りたい。まずは長いファンに。それから若いファンに。今までありがとう。これからもよろしくな。俺達はいつだって君のヒーローであり続けたいと思ってる。だから日々怠けずに己を磨くことを誓う!初心を忘れずさらにどでかい舞台に上がる。それがみんなへの一番の恩返しのはずだろ。間違ってねーべ?俺達夢は見ない。叶えてくだけよ。


そんなこんなでまだまだ俺達は止まらないし、終わらない!むしろNITROという現象はここに来てさらに活発に動き出していく所なのだ。歴史は作られていく。俺達の後に道が伸びる。伝説は続いていく。俺達はここにいる。NITRO MICROPHONE UNDERGROUND。君がお望みとあらばいつだって七色の円盤が八色のフローをスピーカーやヘッドフォンから発射するだろう。そして十年前と変わらず、十年後も変わりそうにないぶっきらぼうな調子で鼓膜に問いかけをねじ込むのだ。







マイクロフォンから調子はどうだ!?







継続は力なり。ニトバナ、以上で堂々の完結とさせていただきます。御清聴有り難うございました、ピースバイナラ!