渋谷CAVE、ア・バウア・クー。タイトルは機動戦士ガンダムのジオン軍最後の砦から取った。俺達はガンダム世代を自負していたからねー。これが俺達の最初の合同プロジェクトだった。


俺、スイ、ケイ、ヨウクン、マッカ、トラ、フカミ、シモ、あと新宿JACK POTチームのDAMAGEや現T.H.CONNECTIONのガルフォースがライブをして、ハヂメ、ムネオ、アンドー、ニシ、M&Mがクラブプレイをした。


今となればなかなか面白いメンツのイベントだと思うが…別にパンパンなことなどまずなかったね!人入りいい時でもマイルドなレベルだったし、悪い時はそりゃガラガラだった。俺達は若くて闇雲で、そして世の中的にはまったく無名な集団だった。


でも…楽しかったんだなー。だってただでさえ身分不相応なことだったわけで。今で言えば俺達の後輩がいきなりハーレムで平日レギュラーを始めるようなもんだ。ア・バウア・クーは俺達の真夜中の部活だった。


この頃俺はムネオとつるむことが多くて、二人で遊ぶことも多かった。ムネオを通して知り合ったACOもよくア・バウア・クーに来てくれたなあ。さっちん、ちえ、ゆかりとかみんな元気じゃろか。


一方CHAOSのレギュラーも続いていて、この頃になると客足対策としてほぼ毎週ゲストライブが行われていた。俺は今よりずっと口下手だったからゲストたちに話しかけることは滅多になかったが、前座はそりゃ気合い入ったもんだ。バレないようにアピりまくったぜ。


この頃シーンはさんぴんに向けて右上がりの盛り上がりを見せていた。ユウちゃんがナイトフライトを始めれば俺達はニケツでバイクに乗り込みTFMへ向かった。熱の高い現場に身を置いていつでもテンションを感じていたかったんだ。そういう経験こそガソリンだった。


ア・バウア・クーの客足は相変わらず悪かったが、週末ともなればCAVEは物凄い動員数を誇っていた。特にマキ&タイキが回す金曜がやばかった…毎週パンパンのビチョビチョ!壁は常にしっとりよ。


客として訪れたMCたちは盛り上がってくると勝手にフリースタイルを始めてたし、DJも客もそれを受け入れた。ジブラとマミーDとマッカが三人でブースでマイクを回すなんてレアなことも普通にあった。


もちろん伝説の日比谷野音にも俺達はいた。トラとマッカがムロ君のサイドマイクを任されたのだ。俺達はおずおずと関係者口から入り、楽屋ゾーンを居心地悪く徘徊した。俺らなんかがこんなとこにいるなんて…。


そしてムロ君の出番直前、事件は起こった。誘われるままになんと俺、スイ、フカミ、シモ、ヨウクン、ハヂメはステージの上にまで出てしまったのだ!今さんぴんとか観るとハズイ…全然動けてねーし。カッチカチ!


それは突然舞い込んだ身分不相応で貴重な体験だった。客が嬉しそうにこっちを見てる状況ってこんな感じなんだ、望まれてステージに立つのってこんな気持ちいいことなんだって始めて知ったんだな。ステージ側からのその「勝者の視界」とでも言える幸福な光景を俺は疑似体験したわけだ。


でも俺達はその場の主役じゃなかった。ただの刺身のツマだった。その事実が俺を暗くした。ただ単純に目の前に置かれた無愛想な真実。でも現実を否定することは若者の取り柄でもあるだろ。それが新しい未来を作るのだよ。俺はツマはイヤだった。主役になりたかったんだ。


華やかなヒーローたちの世界と割と近い距離で東京の夜を泳いでいた俺達は幸運な分だけ悲運だった。否応無しに現実を思い知らされたからだ。ギドラの日本語ライムは次元が違った。ムロ君は歩くヒップホップ。シャカの凄まじいキャラ立ち。ライムスの生きたメッセージ。ソウスクの詩的感覚。ECDの背中。みんな何かを持っていた。そして俺達はなにも持っていなかった。


俺は徐々にダメな生活に拍車を掛けだすことになる…ヤサグレてた。結果的に俺が後に悟ったことはラップライフはスキルだけじゃ続けていけないということ。俺は自分のラップスキルにはずっと自信があった。でも生活は変わらなかった。俺が生活を変える気がなかったからである。生きていくためのスキルというものが俺には欠如していた。そしてそのことにしばらく気付いてなかった。


俺達はさんぴんを経た。そのことが俺達に取っていろんな意味を持っていたのだと思う。この羨望と屈辱にまみれた時代が俺達の逆襲の始まりだったのかもしれない。俺達の喉は乾いていた。だがしばらくすると突如雨雲が江戸に集まりだすのだ。俺達は突然のスコールに濡れる。その雨はひび割れた俺達の唇を濡らし、乾きから俺達を救っていくことになる。そして...その頃にはもうやつらも俺達と共にいた。







うおーーーーー。今回はメンバーと出会わないバージョン。そうせざるを得ないほどにこの苦しい時期は長く、重く俺達にのしかかったねー。それが結果的に俺達を成長させたんだと思う。俺達は徐々に若者じゃなくなっていった。22くらいかな?


少年から青年へ。BOYS TO MEN的な時期である。時代は俺達に成長を促した。それになんとか答えた俺達が次の時代を担っていく存在になってゆく。もちろん当の本人である俺達でさえ全く予想してなかった事態である。シーンもそれを望んでいたのかぶっちゃけわからん。


それでも白羽の矢は俺達の背中に刺さっていた。気付くのに時間はかかったが、それを実感することが俺達の身の回りで起こり始める。その渦のなかに残りのメンバーが降って湧いたのだ。俺達は知らず知らずに時代をハイジャックする準備を徐々に始めていたんだな...。


以下次号!