徐々に俺達は生活を共にしていくようになる。そうなる必然があった。理由ならいくつもあったのだ。


ただでさえ俺達90年代Bボーイには宇田川町というカルチャーがあった。それは俺達世代の誇りであり、日本のヒップホップを語る上での物差しとして今も機能する。


街の空気、熱量は尋常じゃなかった。迷彩上下にティンバーランドが正装とされ、道ゆく誰もがレコ屋袋をぶら下げていた。


クラブのような音量でレコ屋や洋服屋はスピーカーを爆発させた。アナログレコード、サンプリング、ミックステープ、タギングに皆が夢中だった。


ヒーローはすぐそばにいた。でかい四駆をマンハッタンに前付けしたジブラが携帯で喋ってる。その向かいでマーヤンが「暗夜航路」のVHSを手売りしてる。そこにパトリックとリノがシーマで乗りつける。


マミーDが買い物ついでにDMRの階段にタギングしてる。ユウザロックが街中でフリースタイルしてる。シャカゾンビは金歯にラジカセで、どこにいても決して音量を下げようとしなかった。


まだ「成功者」を生み出してないこの頃のシーンはヒーローもヘッズも同じ目線だった。宇田川町に出入りする人間は皆同じムーブメントに参加している同志のような雰囲気があった。一丸となって世の中に一撃喰らわそうとしてたんだ。


そんな渦の中に若い俺達がいた。知り合って間もないマッカが偶然にもハヂメが働いてた原宿のスニーカー屋の一本裏の洋服屋で働いていたので自然かつ必然的に俺達はつるんでいった。


二人の働くそれぞれの店は様々なキーマンが行き交う人間交差点だった。俺達は互いの人脈を交換し合いリンクを増やしていった。特に同世代の仲間が一気に増えた時期だな。


マッカは金曜CHAOSに仲間を連れて来るようになったし、俺達CHAOS組はマッカたちがやってたCAVEのイベントに顔を出した。互いに行き来し合ううちに俺達の繋がりはタイトになっていく。


CHAOS組的には当時一番のヒップホップ聖地であったCAVEでレギュラーイベントをやっているマッカたちを羨ましく思ったもんだ。マッカは当時から顔が広かったし俺達の外交官的なとこがあったねー。


その中でも特につるんでたのは俺、スイケン、ケイボム、BIGGA HEAD、ハヂメ、マッカ、トラ、YSK、ムネオ45。そしてフカミとシモがいた。つまりXBSとスウォードである。


マッカと高校からつるんでたフカミ、そしてムネオと地元が被るシモの二人はひょんなことから大学で知り合っていた。その後フカミがマッカたちにシモを紹介したらしい。とにかく俺達CHAOS組はマッカを通して二人と知り合った。


フカミは大学に通いながらバイトに明け暮れていた。夜中から朝までムネオの家やクラブで遊んでもフラフラでバイクに乗り込んでちゃんと帰って遅刻せずにバイトに出勤する。エライ!


だから会ってから帰るまでずっと寝てるような時もあったねー。出会いと別れの挨拶だけ、みたいな。俺達はよくフカミの寝言を聞いて爆笑したもんだ。でもちゃんとやることやるのはこの頃から変わらないね。


対してシモは真逆!実家のそばにアパートを借りて二匹の猫と暮らしていたシモは彼自身も自由で気ままな猫のようだった。どこか影のあるあの独特な雰囲気は今よりもさらに濃かったなー。


昼に起きて文庫本とウォークマンを片手に新宿御苑や代々木公園へ出向き、お気に入りの木の下でたっぷり日が暮れるまで過ごしてからみんながいる原宿に顔を出しに来るような感じだった。


フカミは後に大学をなんとか卒業する。対してシモはとっくに一学期くらいで辞めてたはず。そんな正反対な二人が今も公私ともにつるんでるのは面白い。でもこの二人には共通する部分があった。クールだったのだ。


二人とも基本無口!フカミは聞き役に徹するタイプだったし、シモはみんなといても自分だけの世界に沈んでいるようなタイプだった。今よりずっとシャイで繊細な感じだったねー二人とも。


それがクルー全体の中の各々のポジショニングを明確にした。俺達は陰と陽を兼ね備えたバラエティー豊かなクルーに成長していった。バイクと車で街を飛び回り、音の鳴る方へと生き急いでいた。


そして互いのイベントを行き来していた俺達は当たり前のごとく一つのイベントを始めるようになる。渋谷CAVEの月一イベント、ア・バウア・クーである。







はいはいはいドーン!XBSとスウォードが登場だ。ここまでに出て来たメンバーでとりあえず一段落だね。このメンツでしばらく過ごさないと残りのメンバーは出てこないんだ。


この頃はマッカがリーダー格でトラはストリートセレブ、ハヂメは御意見番、スイはやんちゃキャラで俺はダメ人間、そしてクールな今回の二人がレイドバックキャラといった図式だった。


フカミとシモの二人はご存知NITRAIDを運営するストリートアイコンでもある。だが二人の役割はまた別なのだ。クールにも種類がある。とは言えそれぞれにクールな二人が洋服ブランドを始めたのは合点がいく。


俺的には二人のクールさは東京のクールさなんだと思う。足立、新宿と二人の地元は離れているが千葉の田舎モンの俺から見ると二人はとても都会的だった。そういう意味でも「クール」だったんだ。


そんな感じであと二人!ザクザク行きまっせ~。 そろそろさんぴんくらいに差し掛かるのかな?時代は燃えていた!それが俺達に火を着けた。ストーリーはさらに続く。でわ次回!