11年て。早いなあ。



早く感じるのはそれだけやつの音源が古さを感じさせないからなのだろう。ラップしかり、トラックしかり。90'sヒップホップのひとつの到達点、金字塔。11年経った今も鳴り止まない、鮮烈なブルックリンの喧噪。世界中で今も当たり前にかかり続け、俺たちの心の中でとわに生き続ける。ビギースモールズ、ノトーリアスB.I.G.!命日だ。黙祷してくれ。



彼と2パックが死ななかったらシーンはどうなっていたのだろう。彼らは望むと望まざるとに関わらず、その身を以てシーンの目を覚まさせたのだ。こんなのいやだ、こんなのヒップホップじゃねーよ!世界中で何人のヘッズが俺と同じことを思ったのだろう。ビギーと2パックが死んでしまうシーンなんて、正しいわけがあるはずもない。「西も東も関係ねー」ってさ、口に出すのは簡単よ。ただあの狂気の90年代中期に誰がそれを口に出せた?ビギーが、2パックが、モブディープが、スヌープが、史上最悪の結末を迎えるビーフに目をギラギラさせていたあの頃に。俺たちはそれを楽しんでしまった。それがエンターテイメントだと思ってしまった。そして運命の弾丸は弾かれ、すべてが終わり、俺たちは立ち尽くしたのだ。



もうビギーはいない。2パックもいない。怒れる神はシーンから二人のラップスターを奪い去ってしまった。「悔い改めよ!」俺たちはやっと目を覚まし、自分を責め始めた。かけがえのない二人の天才がシーンの浄化のための人柱となってしまったのだ。なんでこんなことになっちまった?こうなる前になにか出来なかったのか?出口のない苛立ちが悲しみとともに俺たちの胸を深くえぐった。俺たちはまず最初に純粋に音楽を愛したはずだった。そのあとにライフスタイルや考え方などに影響を受けたのだ。だが俺たちはその順番を間違えてしまっていることに気付いていなかった。まず最初に音楽ありき。そんな当たり前のことを狂騒に浮かれて忘れていた。結果、彼らの新曲を聴ける機会は永遠に奪われてしまったのだ。



ヒップホップって何なんだ?俺たちは今一度その答を確認しなければならなくなった。ギャングの抗争を沈めるための血を流さないバトルとしてヒップホップは生まれた。グラフィティもブレイクダンスもDJもラップもすべてがそうであったはずだ。狂騒を沈めるための競争。つまり死んではならないことがルールだったのだ。とある曲でビギーは「FUCK HIPHOP!」とのたまったことがある。これは俺のビジネスだ、ヒップホップなんかじゃねえぞ、と。その発言自体が彼のハングリーさやハードコアさを表現していた。彼の存在自体がブルックリンだったということ。口を塞がれた荒くれたフッドの代弁者として彼のラップは機能した。だからこそフッドは彼を愛したのだ。



だがはっきりと言える。彼は最高にヒップホップを愛していたはずだ。誰の目から見ても彼はラップの神に愛されていた。だからこそ「FUCK HIPHOP!」と言えたのだと思う。彼はタブーをエンターテイメントに消化するプロだったのだから。全てをハードコアなジョークに変えてしまう名人芸は他の追随を許さなかった。強面をくしゃくしゃにして「冗談だよ、冗談」なんて笑ってる彼の姿が思い浮かぶ。すべてを笑い飛ばすのはゲトーの住人の知恵であり、それこそがヒップホップだった。そして彼はジョークをジョークと捉えなかったシーンに殺されたのだ。まさしくシャレになんねえ...。死ぬなよバカ、生きてろよ!!



だからジェイZとナズが握手をした背景にはビギーと2パックの死が透けて見える。繰り返したくなかったのだ、なんせ偉大な二人の天才の死を経験してしまったのだから。ヒップホップの生まれたニューヨーク出身の二人がそう考えたのは実に生産的だった。だからこそ俺はジェイの行動に感動したし、それを受け入れたナズにも感心した。ヒップホップは死なない。そしてヒップホッパーは死んではならない。彼らの握手はヒップホップはポジティブな競争であるべきだと再認識させる儀式だった。俺は思ったものだ、ジェイ、それでいい。絶対にそれが正解だと。ビギーと2パックは天国で笑っていたに違いない。サグズマンションでブラントを回し、ヘネシーをすすりながら。



今の俺たちがあるのは彼らの死があってのことだと思わなくてはいけない。そうでなかったら俺たちどうなってた?想像したくもねー。彼らは俺たちを導いてくれたのだ。負の連鎖から逃れる術を教えてくれた。ヒップホッパーは絶対にポジティブでなくてはならない。あえてネガティブにものを言わねばならない時もあるだろう、だがその向こうにポジティブな何かを見据えてなければ言った意味がない。ヒップホップである意味がない。だからそれはヒップホップじゃない。俺はヒップホップだ。だから絶対に後ろ向きにならねー。彼らの死を無駄にしねーよ。なにかがあったら思い出すんだ、それでクールダウン出来るだろ。俺たちあんな思いはもうたくさんなんだ。



感謝するぜビギー。感謝するよ2パック。最高の音楽で俺たちを滾らせ、落ち着かせ、勇気づけてくれた。本当に大事なことはなんなのか、バカな俺たちヘッズに教えてくれた。それを胸に俺たちは今日を生きる。俺たちは、死なない。ヒップホップは死なない。俺たちが死なせない。だから安心して安らかに眠ってくれ。そのうちそっちで会うだろうよ。その時はあいさつさせてくれ、俺もいい土産を持っていくつもりさ。R.I.P.ビギー、心からありがとう。今までもこれからもずっと大好きだ。死ぬまでお前の曲を聴いていく。ずっと忘れないよ、でかくてちっちゃいバッドボーイ。忘れないでほしい。世界中がお前を愛して悲しんでるぜ。俺もお前を想って目を閉じよう。



...さみしいぜ。チキショー。