「改心」
こんな昔話があります。
ある山の麓に赤鬼が住んでいました。
この赤鬼は、里に住む人間たちと友達になって
仲良く暮らしたいものだと願ってました。
しかし、赤鬼が人間たちに話しかけようと近づいていっても
彼らは恐れて逃げてしまうし、
「ここは心の優しい鬼の家です。
どなたでもお入り下さい。大歓迎します」
という看板を立てても、
「どんな歓迎されるやら」
と怪しんで誰一人近づく者はありません。
そこへ友達の青鬼がやってきて、ある作戦を授けてくれました。
その作戦とは、
「僕が村で大暴れするから、そこに赤鬼君、
君がやって来て村人の味方になり、僕をコテンコテンに殴ればいんだ」
というものでした。
赤鬼は悩んだ末にこの作戦を実行しました。
青鬼が予定どおり、村で食料を奪ったり物を壊したりして
乱暴狼藉を働いているところに赤鬼が現れ、
暴れる青鬼を懲らしめて山へ追い払いました。
村を救ってくれた赤鬼に村人はすっかり感激して、
それからというもの毎日、赤鬼の家に遊びに来ては
一緒にお茶を飲んだりおしゃべりをして、
心打ち解けて付き合うようになりました。
そんな楽しい毎日を送っていた赤鬼ですが、
ふと青鬼のことが気がかりになりました。
「わしが殴りつけてひどい目に合わせてしまった青鬼君は、
いったいどうしているのだろう?」
思い出したら青鬼のことが気になって仕方がありません。
ある日、赤鬼は山奥の青鬼の岩屋を訪ねてみました。
たくさんの山百合いに囲まれたその岩屋の戸は固く閉ざされていて、
寂しげに一枚の貼り紙がしてありました。
貼り紙にはこう書かれていました。
「赤鬼君、人間たちとはどこまでも仲良く真面目に付き合って、
楽しく暮らしてください。
僕はしばらく君にはお目に掛かりません。
このまま君と付き合いを続けていれば、人間は君を薄気味悪く
思わないでもありません。
それではまことにつまらない。
そう考えて、僕はこれから旅に出ることにしました。
長い長い旅になるかもしれません。
けれども僕は、いつでも
君を忘れない。
いつかどこかで、また会えるかもしれません。
さようなら。
体を大事にしてください。
どこまでも君の友達 青鬼 」
赤鬼は黙って、貼り紙を何度も何度も読み返しました。
読み返してるうちに涙が湧きだして、溢れ出た涙をボロボロこぼしながら、
おいおいと泣くのでした。
このとき赤鬼は深い後悔の思いにいたでしょう。
人間と仲良くなりたいばっかりに、何の関係もない
友人を引きずり込んでしまって下手な猿芝居を演じさせ、
あらぬ汚名まで着せ、さらにここから追い出してしまったようなものですから。
大事な友につらい思いをさせてしまったのです。
私たちは、失敗して初めて気付くことがあります。
失敗しなければ気付けないこともあります。
人間はまことに哀れむべき存在です。
改心するには、まず気付かなければなりません。
衝撃を受けなければなりません。
この赤鬼、青鬼の話を聞いて、卒然と改心した人がいます。
その人は今、刑務所の中です。
言葉にして言い尽くせぬほどの恩を受けた方に償いきれぬ
迷惑をかけたのだと彼は後悔しています。
この鬼たちの話が身につまされたのかもしれません・・・
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