◇が10代の頃の話です。


実は。高校1年生~学部に入るまで、

    自宅の古い階段の数段目の中に、

    うつ伏せで暮らしていた人 がいました。


彼は、匍匐前進状態で、

 いつもキョロッとした目をしては、

  「仕事がないイギリスの田舎町から来た。」こと、

  「年配の女性に手紙を届けに来た。」ことを、

 しきりに

  話してくれました。


古めかしい声質のわりに、当時16・17歳だった◇からして、

 24・25歳と若い彼は、自宅にいるとき、

      いつもその階段に入ったままでした。


 なかなかそこから出てきてくれないので、

「なにをしに、家に来たのか?」

「いつか出て行くのか?」

「食事は必要か?」

  を

聞きました。

当時◇は、

  その赤いトレンチコートを着た、

     バーバリー・プローサムを愛用する、


  読書の小谷野先生に恋をした

    イギリスの郵便配達員であられた

            ポートマットレッドさんの話しを、


 ワードに書き綴っていた小説の

 登場人物の一人として、

 祖母に話していました。


アガサ・クリスティーやコロンボ刑事が好きな

着物生活の祖母にとって、◇がする

トンチンカンな話は、ワケ分からなかったことでしょう。

迷惑だったかもしれません。


「なぜ彼は、わざわざイギリスから来て、

 階段の中央段目に暮らしているの?」


 「部屋というか、階段から出るときはいいけれど、

  郵便屋なのだから、出掛けて行って、

  階段に帰るときはどうするの?」


 「それから、極端に細くて、背が高いっていうけれど、

  そんなに長身の必要はないんじゃないの?」

 

「“一枚の手紙を届けにきた”っていうけれど、

 そもそもが、彼が読書の先生に手紙を送ったことから、

 恋愛電報が始まったとかいう設定は、ムリがあるんじゃない?」


       上記の話は、祖母の口が開いているときに

       よく聞かれました。


そんなこと言われても、レッドさんが、

            「おじょうさんね。」と話しかけてくるんだもの。


                    と、

                     言い出せませんでした。




                    ◇