清明に生れてみどりの踵持つ
舌に山葵中国の同世代とか
清明に死してわたしと隣り合ふ
肩口よりどつと吹きだすミモザかな
小面をはづしかの世のころもがへ
泉からむらさきのひとるいるいと
やかなけりけり秋の夜の缶蹴り
かなしみに芯あるゆふべ鶴来るよ
両手からきつねこぼしてしまひけり
ひざうらのやはらかなこと梅咲いて
ひだりてのすみれまがつてここにきて
ぼろぼろの青嵐はろばろと来ぬ
ビビンバを食ふ遠景の冷し馬
釜揚げのしづく珊瑚の枯れる夏
くりかへし記憶にふれる鰍かな
光る首はねよはねよと秋桜
白和に柿を刻んでゐなくなる
濃いさくらうすいさくらを呼びわける
ふつさりと腕のべらるる春の昼
そしてみな芹の部屋にてまどろみぬ

キーワードで。
構成の妙。
 清明に生れてみどりの踵持つ
 清明に死してわたしと隣り合ふ
 そしてみな芹の部屋にてまどろみぬ

身体感覚の鋭さ。
 肩口よりどつと吹きだすミモザかな
 ひざうらのやはらかなこと梅咲いて
 ふつさりと腕のべらるる春の昼

調べの優雅。
 泉からむらさきのひとるいるいと
 やかなけりけり秋の夜の缶蹴り
 ぼろぼろの青嵐はろばろと来ぬ

対象の新しさ。
 舌に山葵中国の同世代とか
 ビビンバを食ふ遠景の冷し馬
 釜揚げのしづく珊瑚の枯れる夏

表現のはかなさ。
 小面をはづしかの世のころもがへ
 両手からきつねこぼしてしまひけり
 白和に柿を刻んでゐなくなる


巧拙はあれど、この作者は間違いなく「俳句」を書いていると、強く思う。