初妄出 | キャラメルアメーバ

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小説ブログです。
なにもかもフィクションです。

息が白い。
普段はひっそりと静かなこの土着鎮守の社も、今夜ばかりは様子が違う。
初詣に集う人に紛れて――実際には彼らを取り巻く人間に気付かれることすらないが――セバスは締め付けるような冷気に身を震わせた。
「くっそ、さみーな」
「だから人間に混じってあったまってんだろ」
「しかも足元にこんな石ころばらまきやがって、苦行もいーとこだ」
幅広い参道に敷かれた砂利に忌々しげに目をすがめる様すら絵になる友人だが、サイはタートルネックにアゴまで埋めて顔も向けない。
「あんだよ、人間の言うカミサマってやつを見てみたいっつったのはセバスだろ」
「まさか外からしか拝めねえとは思わなかったんだよ」
「隣のオバチャンじゃねんだから、ちょっと遊びに行っただけで部屋に上げてもらえるわけねーだろ」
サイの言うことはもっともだと思ったが、揶揄めいた物言いがセバスを逆撫でした。
気分を害され黙ってしまった彼の表情は彫像のように美しく、漆黒の眉目はむしろ神々しくさえあった。

人間界 日本、12月31日。
大晦日という名の、その年最後の日。
新しい年をカミサマとやらと共に迎え、チップを払うと願いが叶うのだと聞いて、暇をもて余していたセバスはサイを誘って遠路はるばるやって来たのだ。
ところがカミサマの住処に着いてみれば、深夜にもかかわらず人間がひしめき合っており、凍るほどの夜気に堪えかねて2人は人波に降りざるをえなかった。
悪魔は基本的に寒さに弱いのだ。
しかし寒さをしのぐために紛れてはみたものの、それは入場制限を受け、順番に本殿へ誘導されるのを待つ列であり、勝手のわからない悪魔2人は誰からも見咎められることはないというのに、横入りもせずマジメに並んでいるのである。
「おッ、動いた」
前の参拝客の参詣が済み、神社に雇われた警備員に促された次の一群が先へ進む。
セバスとサイもばかでかい賽銭箱が据え置かれた本殿へ向かった。
ようやくたどり着いたそこで、見よう見まねで賽銭を投げ、柏手を打って目を閉じる。
「オレらの通貨でもチップになんの?」
「あー…全能なんだろ、換金できんじゃね?」
瞑目し、手を合わせたまま言葉を交わして、また周囲に倣って一礼する。
そのまま人の動きに流されるように歩き、参道に焚かれたかがり火を物珍しげに眺めながら、セバスは白い息を吐いた。
「サイ、カミサマに何頼んだ?」
「今年こそ伏魔殿で働けますよーにって」
ポケットに手を突っ込んでしれっと答えたサイに、セバスは思わず呆れてしまった。
「あの額でよくそんなこと頼めんな…ローリスク・ハイリターンも甚だしいし」
「うるせーよ、この国のエビでタイを釣る合理的な国民性に賭けたんだっつうの。おまえは?」
まだ友人を凝視していたセバスは、尋ね返されて緩く笑った。
「すげーエロい美女と運命的な恋におちますよーに」
「おまえのがよっぽど不謹慎だろッ」
「金で願いを叶えようって魂胆が端から不謹慎なんだからいんだよッ」
何やら細く畳んだ紙を木の枝に結びつけている人間達を横目に護符や御守の授与所に差し掛かったあたりで、サイが足を止めた。
「何アレ」
2歩3歩進んでセバスも立ち止まり、サイの視線を追う。
「キモノだろ。日本の民族衣裳」
授与所にも参道と同じように長い列ができており、その先頭で若い男女が護符やら縁結びの御守やらを忙しなく売りさばいている。
確かに彼らが着ている装束は明らかに参拝客らとは違うものだが、サイの足を止めた原因はそれとは違った。
「ちげーよ、アレだって」
彼が指さす先へ目をこらして、セバスは仰天した。
「なッ、アレ…売ってんのか?!」
「…みたい、だな」
驚いた様子で見つめる2人の前で、今もまさにそれを手にした客がいる。
木の軸に鳥の羽根がつけられたそれは、和弓の矢を模してあった。
「1200円っていくらだよ」
「…わかんね」
わかんねーけど、ハイリターンキターッ。
サイが人波を飛び越え、頭上から手を伸ばしてその矢をつかみかけた瞬間、焦ったセバスに後ろから羽交い締めに抱き止められた。
「何してんだ、サイッ」
「バカおまえこれ魔界に持って帰ったらどんだけ儲かるか」
「セコッ」
「うるせ、いつまでも官僚浪人なんかやってらんねーよ」
と、もみ合う2人に向かって声をかける影がある。
「あーこんなとこにいたッ。何してんスかセバス先輩」
振り返ると、前の年に卒業するまで通っていた学校の後輩だった。
「エンマ」
「仕事サボって何観光してんスか!通訳いないと会議始めらんないじゃんッ」
「だって大天使長とかすげー色目使ってくんだもん。食われそうで怖えよ」
顔をしかめて答えたセバスに、つい先日魔界の長、閻魔王になったばかりの後輩は嘆息しかけて、そこにもう1人悪魔がいることに気づいた。
「あ…え、と」
セバスに名前と年齢を紹介されたサイは、初対面の国主に飛びついた。
「オイ、何でアレが人間界で絶賛販売中なんだッ?」
「え…」
突然予想外に噛みつかれたエンマはキョトンと首を巡らせた後、通りすがった女性が手にしている破魔矢に目を見開いた。
「破霊留矢ッ?!」
それは悪魔の人口比率において増殖を続けている混血悪魔に課される魔技能検定を突破した者に、合格の証として与えられるものとまったく同じなのだった。
この矢を手に入れるために、混血児として生まれた悪魔達は大変な苦労を強いられる。
闇で売買されることも珍しくなく、これを持ち帰って一儲けしようとサイが考えたのも無理からぬ話なのだ。
「ななななんでッ?…てゆうか、これを魔界に持ち帰れば」
おまえもッ?
目の前であっという間に意気投合した友人と後輩を愕然と眺める。
「ちょ、セバス先輩ゴメン、先行ってて!サボんないでくださいよ、今日の会議、議長のガブリエルって美人らしいから」
「じゃーなセバス、よいお年をッ。行くぞエンマ」
「待ってサイくん、もしかしてこの工場探した方がいんじゃね?」
「おまッ…偉人すぎ」
バタバタと飛び去った後に取り残されてセバスは、深いため息と共に身をひるがえした。
「…議長が美人か、しょーがねえな」
音をたてて黒い翼を広げる。
間もなく初日を戴くべく、わずかに白み始めた虚空へ舞い上がり、ゆるりと闇に軌跡を描いて消えた。

END

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あけましておめでとうございます!
すっかりゴブサタでアレですが、皆様よいお正月を過ごされましたか。
ニッチはもうアレです、妄想三昧。

今年初の更新のネタは、初詣に出かけた先でのこと。
破魔矢と御守りを買おうと売り場に並んだんですけどね、売り子さんがみんな若い男の子だったんですよ、ビバ熱田神宮。
もう長い列に並ぶ間、ニッチの脳内はすっかり薔薇色でした。
袴とか考えた人って相当だなってね、うん。
柔らかそうな髪の毛のオサレメガネのバイトくんから破魔矢を買ったら、もう書くしかないよね。

とかいうわけで、あたしも楽しいお正月を過ごしつつ、初めての更新を初めて全文ケータイ打ちという初モノづくしの初記事です。

悪魔パパ達のお話になりましたが、まだパパになる前、セバスがガブリエルとの運命の出会いを迎える日のアレです。
魔界にはお正月休みとかはない設定で。

サンガニチもとうに過ぎた今、大晦日の話でサーセン。
ぬるく見逃していただいて、今年もひとつアポロンな視点でヨロでつ。

藤城ニッチ 拝